【長編】山に登った日のこと

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山に登った日のこと。

この日はジェイムスといっしょにやんばるに行くことになった。やんばるは沖縄本島北部の森があるエリアのこと、厳密には発言者がどこにいるかによってその言葉が指す広さが変わる。「北の方の森」のニュアンス。町が終わるところからやんばるは始まる。だから名護市を町だと思ってない人にとっては名護市もやんばる、名護市が町だと思っている名護市民にとっては名護市以北がやんばる。

昼過ぎに沖縄市で合流。ハンバーガー・イズ・マイライフと言ってはばからないジェイムスに世界で一番おいしいとある人が言ってはばからないハンバーガー屋に連れて行く。「ふーん、これが世界一おいしいハンバーガーか?ふーん」とまったくそう思ってない感じの感想。

職場の友達数名がバスで北部に向かってるから合流できないかと言われる。車に乗れるなら問題ないと伝える。人数を聞くとこれは法律違反かもしれないと思ったけれど、調べる方法がないので途中のリゾートホテルで合流。僕の小さな車にでかい外人がぎゅうぎゅうに乗っている。どう見てもおかしいのでみんなで写真を撮る。日本から持って帰ると喜びばれそうな感じの写真。

コンビニで腹ごしらえ。わさびのお菓子はどれだ?聞かれて教えてあげる。これはジュースか?と言ってチューハイの缶を持ってくるので「ちがう」と答える。おまえはどの菓子が好きなんだ?聞くのでアルフォートを教えてあげる。

コンビニの駐車場で軽く宴。インディアナではビールの空き缶が車の荷台に載っているだけで違法だと教えてもらう。あと日曜日はお酒を売ってはいけないという法律があると教えてもらう。「日曜日にナンの意味があるんだ?」と聞くと「プロテスタントの休日だよ」と軽く自虐的な笑いといっしょに返答。わさびスナックの袋をあけると中味が一個一個包装されていることに驚く(僕がじゃないよ)。

自然の中を歩きたいということだったので「滝」と「山」どっちがいいと尋ねるとインディアナにはない「滝」を選択。インディアナはすごく平らなところらしい。山はほとんどなく丘が少しあるだけだと。インディアナ最大の滝を見に行ったらこのくらいだった、とジェイムスが肩の高さを指さして言っている。本当だろうか。

名護市も通り越して結構な距離を走ってやっと滝に到着。到着間近の曲がり角の看板に最終入場3時30分の文字。今は4時30分。あきらめの悪い僕らは当たり前のように事務所まで行っておじさんと話す。今から入ると日暮れまでには帰ってこれないのでもう入れませんとおじさん。あきらめて山に行くことにする。今来た道を名護市まで戻る。山はたしか今帰仁(なきじん)半島にある。(今見たら今帰仁半島ってのはなくて本部(もとぶ)半島みたい。)

今帰仁まで戻ってくる。山の場所は大体わかっているのに登り口がどこにあるのかよくわからない。名もなき十字路の名もなき商店のおばあに尋ねる。山の名前をなんど言ってもわかってもらえない。途中でもうちょっとわかってもらえそうな違うおばちゃんが話に参加。

「そこの道があるでしょー?」
「はい」と僕。
「その道をまーっすぐ行くと次の角に商店があるさー」
「はい」と僕。
「そこの人に聞きなさい」
「はい」と僕。

車に戻って「場所はわかったのか」と聞かれたので上のやりとりをそのまま伝える。もうさすがに後ろの人たちはきついみたいで止まるたびにローテーションで人が入れ替わっている。名護で自然探検ツアーのガイドをやっている友人に電話をして場所を聞く。この山を教えてくれたのも彼だ。山の中なので電話が切れる。圏内に戻るとメッセージが入っている、という感じ。一番最初に「懐中電灯を持っているのか?」と聞かれてまわりが暗くなり始めていることに気づく。2,3回のやりとりの後なんとか登り口にたどり着く。

ビーチサンダルは僕だけ。ガイドの友人曰く、片道30〜40分くらいで頂上まで行けるけどその分傾斜がかなりきつい、とのこと。登り初めてしばらくしてその友人から「大丈夫?登り口まで行けた?」とやさしいメール。すでに心臓ばくばく足ぷるぷる。とてもじゃないけど携帯の小さなボタンを扱ったりできる気がしない。さらにビーチサンダルで登っているなんて怒られそうで言えない。返事はあとまわしだ。空気もきっと薄かった。ジェイムスたちは狭い車内から解放されたのと駐車場の展望台からの景色がよかったのが嬉しかったようで、ふざけて追いかけっことかしている。

途中で軍人の家族とすれ違う。夫婦と子供2人。全員サンダルだったので少し安心する僕。さらにお父さんは疲れて眠った子供をおぶって歩いている。その時は何も思わなかったけど実際そこから先がどのくらい急な道か知ってたら「父ちゃんってすごい」ってみんな思うはずよ。英語を喋る者同士ですばやい情報交換が行われ、僕らの未来が少しわかる。最後の15分くらいがとにかく急らしい。

途中から道というより岩山をよじ登っている感じになってきた。さすがにやつらもここでは走れない。でもお喋りは途切れない。ジェイムスがこれは今までで一番きついトレッキングだ、と言っている。インディアナはそんなに平らなのか?と思うがもう口に出す余裕は僕にはない。僕は弱音を吐けない。唯一の地元人の誇りとプライドにかけて。

頭の上の木がどんどん無くなってきて周りが見え始める。やっと頂上に到着。すごくいい景色。来たことない方はぜひここ来た方がいいですよ。いいところです。写真を撮りまくる彼ら。セルフタイマー機能をフルに活用してみんなでいっしょに写る。みんな構図にうるさくてバンド写真の撮影か何かみたい。この写真を僕は見ることがあるのだろうか。

メールの着信。僕らの頼れるガイドからだ。「山登り経験者だとしてもこの時間に頂上まで行ったらだめよ」の一言。とても「今頂上です」とは言えない。返事はあとまわしだ。みんなに伝えてすぐ下山開始。やつらのひとりが「車に懐中電灯あったのに」と言う。「まじでー?じゃあ待ってるから取って来てよ」とみんな思いついただろうに敢えて言わなかったジョークを敢えて口に出してちょっと後悔する。まあいい。とにかく下山開始。

下りは体力的にはきつくないのだけれどこけると怪我しそうなので精神的に疲れる。途中で左手の親指を突き指したみたいなのだけれど、いつやったか全く記憶にない。どんどん暗くなる中なんとか無事帰着。駐車場には車が2台だけ。もう一台の車の持ち主がトイレの水道で顔を洗っている。ランニングシャツに黄色い短パンのおじさん。ちょっと変かもしれないおじさん。おじさんの車の中は生活道具でいっぱいのように見える。おじさんは「オカエリー!」と至近距離から異様にでかい声でみんなに言っている。

あまりにも声がでかいので不審がるジェイムスたち。「おかえり」って言ってるんだよと言って安心させる。日本人がひとりいるのを見つけて「この人達兵隊さんかい?」と僕に聞くおじさん。ジェイムス軍団のなかの沖縄5回目くらいのにいちゃんが「兵隊ジャアリマセン」と日本語で言う。これだけは言っときたいらしい。

それじゃ帰ります、とみんなで車に向かうと後ろから「うわー、その車にみんな乗るのかい??!!」と黄色い短パンのおじさんの(大きな)声。「この小さい車にみんな乗るのか?って言ってるのか?」って沖縄5回目のにいちゃんが僕に聞く。よくわかったね、と答えると嬉しそう。

名護市街までもどってそば屋で晩ご飯。ゴーヤチャンプルー定食。おごってもらう。箸の使い方の話とそばを食べるときは音をたてて食べるという話など。僕らのガイドに無事帰還したことと山を教えてもらってありがとうと感謝の連絡。実際みんなとても喜んでいた。

沖縄市で何人か下ろして那覇の居酒屋にいるちえみさんと合流。その後カラオケ。「沖縄で一番いいカラオケプレイスだ」と伝えて、沖縄で一番古いと言われているカラオケボックスに連れて行く。朝3時くらいまで史上最高に盛り上がる。相当笑った。僕は運悪く次の日の朝用事があったので後ろ髪を引かれつつジェイムスと彼の友達を連れて帰る。ふう、長い一日でしたね。今まで一番長いエントリーじゃなかろうか。

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