5夜連続 うんこの話
第1話「ノグソのルール」
あれは僕がまだ青い年頃で、ひとり旅行をしていた時の話。インドの西の端のグジャラートという州の中でもさらに西に行った小さな村でのこと。とりあえず端っこが好きな僕は西へ西へと行きたくてインド政府が許す限りの西の村まで行きました。結構大きいブジという町で許可をもらってバスに乗って辿り着いた村。お寺をちょっと見て、ご飯を食べてちょろちょろと歩き回ったあと、バスターミナルで帰りのバスを待っていました。バスが来るまであと2時間くらいあったので友達に手紙を書いたり欲しくもないのに売店で買い食いしたりしていたとき便意が始まりました。
ターミナルのトイレは予想通りうんこ爆撃にやられていてとても入り込む余地はありませんでした。こうなったら野糞です。河原とかで石のように気配を殺してうんこをしている人をよく見ていたのでまず川を探しました。しかしどう見ても川はない。ありそうな感じもしない。しょうがないので一生懸命町はずれに向かって歩きました。小さな村だったので5分くらいで町の全貌が見れるところまで歩くことができました。しかし困ったことに隠れるところがない。乾燥した平な畑が果てしなく続いているだけです。
それでもしつこく歩いていると畑のあぜ道の交差点みたいなところで、座った牛ぐらいの大きさの藪をみつけました。その交差点は5差路になっていて相変わらず平らで見渡しもよかったので半径1キロくらいには誰もいないことがわかりました。藪の向こう側に行って僕はズボンを下ろし、どこまでも続く乾いた大地と高い空を見ながら自然に対する人間の無力さについて考えを巡らせ始めていたその時。町のほうからおじさんがひとり歩いてきているのに気付きました。不覚にもおじさんはすでに200メートルくらいのところまで来ていました。しゃがんでいるのを見られるのはまだよくても、おしりを拭いているのを見られるのは僕の価値観としては許せない。迷ったのですがそのまま座っていることにしました。
おじさんは「サクッ、サクッ」と茶色い草の上を歩いて確実に近づいてきます。藪とってもすかすかの枯れ木みたいな藪なので当然僕の存在や、僕のやっていることには気付いていたはずでした。もう僕にできるのは石になることです。ちょっと怒ったふうな顔をして、ずっと地平線を睨みつづけました。
「サクッ、サクッ」という音が真後ろまで来ました。僕は石です。おじさんは完全無視で通り過ぎていってくれました。一瞬もこちらを見ずに。
野糞の仁義を見た気がしました。
僕のようなよそものが河原を歩くと、足元ばかりに気をとられて目の前のしゃがんでいる人の真ん前まで行ってしまうことがあります。仁義違反です。でもそのとき彼らは石です。僕もその日、石の気持ちを悟りました。すばらしい。
でもうしろから来たのが則巻アラレちゃんみたいな子供だったら僕は終わっていたでしょう。つんつくつんされて。
うーんいまいち感が拭えない話。
くそっ。
世界のうんこから。
明日は中国から中国のうんこを紹介します。
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