December 2009アーカイブ

瞳子(とうこ) 吉野朔実 小学館

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瞳子 (小学館文庫)

吉野朔実は他にもいいのたくさんあるけど、マイベストはこれ!

80年代後半くらいの設定で描かれた、音楽好きでちょっとスノッブな女の子と、その友人達のお話です。その頃に青春時代を過ごした人なら、出てくるバンド名や本のタイトルが懐かしいかも。

二十代前半ぐらいまでは根拠の無い自信があったっていう人、きっと多いよね?白状しますと私もそうで、自分は皆とは違うもん、なーんてひそかに思っていて、音楽とか文学とか背伸びしてわかったような気になってました。

趣味の合う友達とつるんでるのが楽しくて、世間の事なんてどうでもよかったし。遠くのものに憧れて、自分の身近なものの平凡さが嫌だった(例えば母親の世間話とか。。)プライドだけは高いんだけど、まだ何者でもないっていうお年頃。思い当たる節がある人は、この「瞳子」には共感ポイントがごろごろあるんじゃないかな。

若さゆえの傲慢さで、専業主婦のお母さんやイケイケOLのお姉ちゃんのことを普段は馬鹿にしてる瞳子だけど、その現実処理能力を目の当たりにして感心する場面も出てきます。自分の弱点というか子どもっぽさにも、薄々気がついてるんですよね。

青春時代って振り返るとすっごく恥ずかしい。でも懐かしくて愛おしい。...と、すっかり通り過ぎたつもりの余裕な気分で、最近もこの漫画を読み返してたけど、作者のあとがきにドッキリ。

「年齢を重ねると少しずつ人生の謎は解けてきますが、だからといって不安が無くなるではないし、情緒が安定するわけでもありません。」

ハイ、そーですね!少しは大人になったつもりだけど、中味はあんまり変わってないですね...。

吉野朔実は読者家でもあって、本の雑誌やユリイカに連載された書評漫画のシリーズもいいです。わたしは書評を読むのが好きなんですが、これらはマンガ仕立てなので余計に楽しい。

お母さんは「赤毛のアン」が大好き
本を読む兄、読まぬ兄
弟の家には本棚がない
犬は本よりも電信柱が好き

瞳子 (小学館文庫)

リアリズムの宿  つげ義春「旅」作品集 つげ義春 双葉社

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リアリズムの宿―つげ義春「旅」作品集 (アクション・コミックス)

つげ義春を初めて読んだのは「ねじ式」だったかなあ。意味がわからなかった!でもとにかく衝撃だった!!

今日はたまたまこの「リアリズムの宿」が部屋の本棚にあるのが目についたので、これを紹介しまーす。代表作ってわけじゃないんだけど。というかですね、好きな漫画って人に貸したくなってしまうので、手元に無い率が高いんですよね。あるときふと、あれ?持ってたはずなのに無くなってる...ってことがよくあります。もう誰に貸したかも覚えてないし。まーいいや、と思って自分用にもう一冊買ったりしてます。

つげ義春は大変有名な漫画家なので説明は省きますが、後のあらゆる表現者に多大な影響を与えてますよね。たくさん映画化もされていて。「リアリズムの宿」も山下淳弘監督で2003年に映画になってます。旅の道中の、情けな~い出来事や気まずい雰囲気がよかった。ちなみに音楽は「くるり」です。

(この「リアリズムの宿」に登場する謎の女の子役の女優さんって、なんと!河瀬直美監督「萌の朱雀」の少女役の子だったんですね~。つい先日、お昼どきにNHK「スタジオパークからこんにちは」をぼんやり見ていて知りました。あの田舎の娘がこんなになったんだーって感慨深かった。
尾野真千子ちゃん。とっても性格の良さそうな女優さんです)

この作品集には、「リアリズムの宿」のほか、「紅い花」「李さん一家」「ほんやら洞のべんさん」「もっきり屋の少女」「庶民御宿」など11編を収録。つげ義春独特の、観光名所も豪華料理も一切出てこない「旅もの」集です。「李さん一家」は、別にこれ、旅の話じゃないよなあと思うけど、わたしはつげ作品の中でも特に好き。最後の1コマ「実はまだ二階にいるんです」が妙に印象に残ります。

「李さん一家」の後日談の短編「蟹」も入ってますよ。あっさりした話だけど。

リアリズムの宿―つげ義春「旅」作品集 (アクション・コミックス)

「天食」 泉昌之(原作:久住昌之、作画:泉晴紀)/晋遊舎

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天食

「天食」
泉昌之(原作:久住昌之、作画:泉晴紀)/晋遊舎

知る人ぞ知るマンガユニット、13年ぶりの短編集。現代に生きる侍の、食への情熱とこだわり。(なんで侍なのかは、まあ置いといて♪)ただし、好物が主にジャンクフードというところが、情けなくて笑いをさそう。

初めての街で入る飲食店の選び方、注文の品が出てきて期待を裏切られたときの落胆、天ぷら定食を食べ進める順序、カップ焼きそばの美味しさについて、などなど誰もがなんとなく頭の中で考えてはいるけれど、わざわざ人に言わないようなことを、過剰なまでに高いテンションの作品にしてしまっています。

帯に"重箱の隅を全身全霊をこめてほじり描く"とありますが、まさにそんな感じ!ちなみに、帯には奥田民生の推薦文も。「俺もこんな風に曲を作りたい。というか、作っている。(奥田民生)」...民生にあまり詳しくないわたしには、ちょっとピンときませんが、この漫画が面白いことは確かです。

久住昌之は、他にも谷口ジローや弟の卓也ともマンガユニットを組んでいて、それぞれにいい味出してます。久住昌之名義ではエッセイもあり。「天食」の小市民的な笑いがツボに入った人には、久住家の父のビンボー臭い手作り作品をこっそり紹介した「工夫貧乏のシアワセ」もオススメします。

天食
工夫貧乏のシアワセ

「臨死!!江古田ちゃん」(1巻~現在4巻まで)瀧波ユカリ/講談社

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臨死!! 江古田ちゃん 1 (アフタヌーンKC)


「臨死!!江古田ちゃん」(1巻~現在4巻まで)
瀧波ユカリ/講談社

東京練馬区・江古田に住む江古田ちゃん(24歳独身・女)の、日々のつれづれ4コマ漫画。
一人暮らしの部屋では全裸で過ごす彼女。だからこの漫画、ほぼ半分は裸です。(でもヤらしくはない)

昼間の派遣の仕事のかたわら、フィリピンパブのホステスやヌードモデルのバイトもこなし、プライベートでは本命君に適当にあしらわれながらも離れられず、他のどうでもいい男のコ達とつき合って...というと、ただただ軽薄なイマドキ女子のようですが、言ってること考えてることは真っ当でまっすぐ。バカバカしさの中にも鋭いセリフが散りばめられてます。

友人Mとの毒舌バトルは、見ていて気持ちいい。(これ読んだ後は「猛禽」ってコトバが使いたくなりますよ、きっと。)女子の内輪話だけじゃなく、等身大の社会風刺(?)もちらほら...。時々つぶやく切ない一人言にもグッときます。

瀧波ユカリって賢い人なんだろーな。江古田ちゃんの他にはまだ作品を出してないようですが、この先が楽しみな人です。変なタイトルだと敬遠せず、是非読んでみてほしい!

臨死!! 江古田ちゃん 1 (アフタヌーンKC)

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