« 夜の遊園地からの脱出について | Main | つらつら »
2010年07月12日

 東のエデンを見た。
 知り合いが関わっていたり、羽海野チカがキャラクターデザインをしていたり、攻殻機動隊の人が監督だったり、なによりなんとなく周りのクリエイターたちの評判も悪くなかったので観た。

 なんというか、結論から言うととてもがっかりした。
 がっかりというか、ちょっとした危機感すら感じた。
 「物語」というものに対して、こんなに浅薄な感覚しかない作品がこんなに高く評価されるのかと思った。

 もちろんこれは僕の個人的な感想なので、この映画の持つ深みをしっかりと受け止めた方がおられたらそれは申し訳ないと思うのだけど。

 *以下、少しだけどネタバレになる部分があります。

 この作品には、やたらと作りこまれたフレームがある。
 重厚なゲーム設定、時代の先を行くテクノロジー設定、緻密に配置された複線。
 それは物語の広がりを予測させるし、全体として謎めいた雰囲気を演出してはいる。

 しかし、そのフレームの中に押し込められた「中身」は薄っぺらい。
 キャラクターたちの行動は、キャラクターが決めているのではなく、製作者の都合によって決められている。
 主要登場人物の行動決定のモチベーションは説明されることはなく、推察することも不可能なほど唐突で、彼らの大切な決定はすべて作品のその後の展開のためにある。キャラクターは作品のために行動を決められ、感情を操作され、我々視聴者は彼らのどこにも感情移入できない。

 突然泣き出す女の子、突然救うことを決意する主人公。
 謎めいた雰囲気であればなんでも許されるのかと思わせるほど、彼らの行動は矛盾に満ちている。
 世界を救うと豪語する主人公は、意味もなく自分の記憶を消し、無責任に舞台から去る。
 
 目を凝らさなくては見つからないさまざまな伏線は、この物語全体を覆う稚拙さを隠すために利用される。
 「重厚な物語」というものが誤解されている。。
 そして、明かされる謎の答えはどれもこれも拍子抜けで、工夫がない。

 そして、恋愛感情の表現に関してはもう、これを作った人は多分恋愛を2Dの世界だけで学んだのではないかと思われた。

 なぜこんなことになってしまったんだろうと思う。
 そういえば、以前に聞いていた高い評価はすべてフレームに関することだった。
 こんな携帯電話が出て来るんだよ、とかARのことは東のエデンを見ればわかるよ。とか。
 でも、AR技術に関して言ったって、物語の中枢に大きく関与していると言いがたい。

 あああ、別にこんなに悪口ばかり書くつもりはなかったんだけど、僕がいいたかったのは、物語が危機に瀕しているんじゃないかってことなのです。
 上質の謎が提案されるのであれば、上質な答えが用意されていなくてはならないと思うし、せっかくすばらしいフレームがあるのであれば、それを利用していくらでもよい物語が詰め込めると思う。
 しかし、謎は謎のままでなんとなくふわっとした状態で放置され、一応示される答えはまったく納得がいかない。どんなによく観たって、それが記憶を消す理由にはならないと思うし、そんな理由で記憶を消してしまうような弱い主人公にいったい誰が感情移入できるのか。
 
 今、こんなに評判になっているアニメが、他人の感情や謎の起伏をこんなにおろそかにして、テクノロジーやフレームの部分だけをやたらと強調していることを僕はとても悲しく思う。
 なぜ、キャラクターの気持ちになって、作品世界を見つめなかったんだろう。
 なぜもっと丁寧に物語を構築しなかったんだろう。

 アニメってのがこうなのかな。
 アニメを見る人たちが必要としているものが、設定とか、キャラクターのビジュアルとか、なんとなくその場をしのぐかっこいい台詞だけなのかな。

 まあ、いいや。
 めったに映像作品を観なくて、でも久しぶりに時間が出来たからきちんと評判のアニメを見てみたら、もうほんとに衝撃を受けるほどひどかったっていうブログでした。

 僕は、自分のブログで人の作品をこんなに悪く書いたのは初めてだ。
 でもどうしても書きたかったのは、僕が今自分の作っているもので大切にしていることが、この作品ではまったく大切じゃないものとして扱われていたからだと思う。
 自分が思ったことをきちんと言葉に残すことで、自分の作っていく姿勢をはっきりさせることが出来ると思ったからかもしれない。

 このブログを読んで、気分を害した人がいたらごめんなさい。
 どうしても、書いておきたかったのです。 

Posted by kato takao at 2010年07月12日 03:54 | TrackBack
みんなのコメント

おっしゃる通りです。
特に劇場版の「詰め込み過ぎて破綻してる感じ」はひどいですよね。

東のエデンは、物語が「コンテンツビジネスという魔物」に蹂躙された顕著な例だと思います。
不幸の始まりは、フジテレビの伝統ある(?)ノイタミナ枠だったことです。

・監督への最初のオーダーが、「女の子が楽しめる攻殻機動隊」だった。
・最初から劇場版で完結することが決まっていた。
・テレビシリーズラストの盛り上がりが足りないということで、急遽劇場版のラストシーンが繰り上がり、劇場版はその後の世界ということで白紙から作らねばならなかった。

まあこの辺の事情を挙げていくだけでも突っ込みどころ満載というか。
フジテレビだけの責任とは思えませんが、僕は基本テレビ局が嫌いなので、
製作者側に同情してしまいます。
監督はその罪滅ぼしか、書籍やドラマCDで物語や登場人物の背景の補完をしていますし、
僕はその辺もひっくるめて「東のエデン」を評価しています。

アニメに限らず、邦画だってテレビ局中心に製作委員会が組まれ、
役者がありとあらゆる番組に出倒して宣伝しないと成り立たない。
テレビ局が肥大し過ぎてしまったが故に、
消費者は無料コンテンツに完全に飼いならされてしまった。
(つまり本道以外のところでお金を稼がなければならないから無理が生じる。)
エンターテインメントビジネスにおいて、まっとうな「物語」を提供するのが、
とても難しい国になってしまったんでしょうね。

Posted by: 新小田裕二 on 2010年07月12日 14:27

はじめてブログ拝見しました。いろいろな意見や見方があっていいと思うのですが、あまりにも偏った意見であり、また、そこそこ閲覧される方も多いようなので、今後このブログを参考にして作品を見ずに放棄してしまう人が出てくることを危惧し、コメントさせていただきます。私はこの作品を非常に意義深い作品であり、多くの人に見ていただきたいと考えています。

>恋愛感情の表現に関してはもう、これを作った人は多分恋愛を2Dの世界だけで学んだのではないかと思われた。
何故ですか?作品には作品に応じたふさわしい恋愛感情の程度があるはずです。あなたはこの作品を見て、生々しい恋愛シーンが必要だと感じたのですか?この世に生きる人すべてが恋愛の達人ではありませんし、たまたまキャラクターがあなたの好みにあわなかっただけではないでしょうか?

>目を凝らさなくては見つからないさまざまな伏線は、この物語全体を覆う稚拙さを隠すために利用される。重厚な物語」というものが誤解されている。。
どのように誤解されているのか?あなたの考える「重厚」な物語とは?
少なくとも私は、この作品が扱った主題は的確に現在の日本の問題を捉えていると感じましたし、この作品を稚拙と表現してしまうと、アニメどころか、ドラマ、本、音楽、映画等、ほとんどすべての作品が意味をなさない「稚拙な作品」になるのではないでしょうか。
 日本人が本当に危機感を覚えるべき点を作品の端々で表現している「現在ではタブーとなっているテーマ」に切り込んだ作品を私は「東のエデン」以外に知りません。

しかしながら、詰め込みすぎた作品であるとは確かに感じました。感情や伏線に関してもっと時間を割くことができたら、政治的問題や社会的な知識のない人や、日本に対して危機感のない人の共感を呼び、問題をわかりやすく提起できていたと思います。

>テクノロジーやフレームの部分だけをやたらと強調していることを僕はとても悲しく思う。なぜ、キャラクターの気持ちになって、作品世界を見つめなかったんだろう。
テクノロジーやフレーム部分だけを強調??そんなことないと思いますよ。あなたがテクノロジーに関する知識に関してのみ豊富だったからだと思いますが。。。私も主人公が記憶を消した事は納得いきませんでしたが、主人公や物部の行動の原因となる感情は理解できました。そして日本には実際今の日本の閉塞感に対して危機感を抱いている人がおり、様々な思想を持っていることを理解していただきたい。そして、多くの日本人が閉塞感を感じていながら、なんの危機感も感じていないのではないでしょうか。

>僕が今自分の作っているもので大切にしていることが、この作品ではまったく大切じゃないものとして扱われていたからだと思う。
あなたとはおそらく作品の見方が全く異なるために、気分を害したなら申し訳ありません。何らかの制作活動に関わっておられる方なのでしょうか?プロのクリエイターの方で、ネタバレも気にしないのであれば、もっと具体的に批判していただけると私のような者でもあなたの批判に共感できたかもしれません。
また、大変失礼なのですが、アニメを見る人をひとまとめにして考えておられるなら、クリエーターとしてはあまりにも世間の状況が見れてなさすぎると思いますよ。あなたが何らかの作品を提供されているなら、作品世界をしっかりと見つめた、あなたのおっしゃる「重厚」な自信作を提示していただけたらと思います。ぜひ一度拝見したいです。

自分なりの美学と熱い気持ちをもって仕事に取り組まれておられるようで非常にうれしく思います。どなたか存じておりませんが、あなたが多くの人の共感を呼び、わかりやすく、そして願わくば、人々の心に残る意義深い制作活動に従事されることを祈念いたします。

Posted by: 通りすがりです on 2011年08月25日 04:57
comment する

















*POSTを押しても自分のコメントが見えない場合、一度ページの更新をしてみてください。
*HTML不可です。
*アドレスは入れると自動でリンクになります。
*管理者の判断でコメントを削除することがあります。