少女漫画です。
...と書いた後に思ったけど、やっぱこれは少女漫画とは言わないかな。
主人公達は40代だし、いちおう恋愛物だけどキラキラしてないし。
こういう大人の女性の漫画って、なんていう名称になるんですかね。
「レディコミ」とは違うと思うし。
ま、いいや。
もうすっかり大人の男女が、ご近所で知り合い、
ゆるゆると回り道しながら、周りの人達をちょっとヤキモキさせながら、
近づいていくお話です。
鴨居まさねは、ドラマチックな展開とかクライマックスの盛り上がりを
つくることにはあんまり興味がないように見えます。
この人の描くお話はいつも、小さなエピソードの積み重ねで出来上がってる。
その具体的なエピソードの取り上げ方に、妙にこだわりを感じます。
普段の生活で「ん?」とひっかかった事を、普通の人はそのまま流して忘れていくけれど、
この人はそれをすくい上げて漫画の中に散りばめていきます。
わたしはそこがとってもツボなんですけど。
恋愛物にドキドキとか切なさとかを求める方にはあんまりオススメしません。
March 2010アーカイブ
なぜか、知り合いの家の本棚にある率の高いこの漫画。
タイトル通り、刑務所の中の様子が描かれています。
ガンマニアだった花輪和一は銃刀法違反で逮捕され、
執行猶予がつくだろうという大方の予想に反して懲役三年の刑をくらってしまう。
で、出所後に塀の中での生活を漫画にしたわけですが、
この手の手記にありがちな警察や裁判、看守への不満や批判は一切なし。
かといって反省する風でもなく、外への想いを切々と綴るような湿っぽいシーンも全くありません。
ただただ繰り返される囚人の日常が淡々と、でも事細かに描かれています。
よくこんなに細部まで覚えて絵に再現できたなぁと感心するくらい。
さすが漫画家。
特に食事についての描写は、異常なほど細かくしつこくて笑えます。
自由のない毎日だと、楽しみは必然的に
食べることに限られてくるんでしょうね。
特に甘い物は貴重なようで。
ある日の昼食の感想はというと...。
「ああ...食堂に満ちているサラダ(フルーツカクテル)の甘い香り
フルーツの甘い香りの中から生まれた日本の妖精が
ギトギト光るマーガリンや小倉小豆の上を華麗に舞っている
ああ...マーガリン
さいの目に切ったリンゴが入ったフルーツ
甘い甘い小倉小豆...
あまりにもうまいものを食うと脳が...(※ドニョリ~と脳が溶ける絵)
こんなうまいものを食ったのは生まれて初めてだ
ガキの頃生まれて初めて食った生クリームパンよりも...
学校帰りに食った揚げたてコロッケよりも
何百倍も何千倍もうまいのだった
そりゃあもう言葉では言いつくせない
ヘロインなんかめじゃないって...」
この時のメニューは、パン、マーガリン、フルーツサラダ、小倉小豆、牛乳。
たかがこれだけの食事に、大の男がノックアウトされてるわけですよ。
ここまで誉め讃えられるのは尋常じゃない。
でも、わたしもこの気持ち、ちょっとわかる。
十年ぐらい前の夏に、富士山頂の山小屋で住み込みのバイトをしてたとき、
食に関しては同じような状況を経験したので。
やっぱりお菓子には飢えていて、たまーにガイドさんが
差し入れしてくれると嬉しくてたまらなかった。
一つのあんパンを人数分に(14等分ぐらいやったかなぁ)
包丁で放射線状に切り分けて、大事に大事に食べたものです。
もちろん切り分けるときは大小の差が出ないようにと、そりゃあ真剣でした。
なつかしい。
...食べ物の話が好きなので、ついつい長くなってしまいました。
食事以外で一番印象に残ったのは、「願いま~す」。
昼間の作業中は、勝手に動くのは禁止で、
トイレにたつのはもちろん、落とした消しゴムを拾うのでさえ、
いちいち「願いま~す!」と手を挙げて係の許可を得てからしか動けない。
願いま~す願いま~すの声が邪魔で
がんじがらめにされるような重苦しさを味わうというくだりでは、
読んでるうちに気分的に同化してしまった。
それにしても、囚人仲間とのたわいないおしゃべりや、
健全で規則正しい生活を見ていると、
刑務所の中って平和でけっこういいところなんじゃないかと思えてくる。
いや、本人はもう入りたくないって言ってるし、
あえてノンキな書き方をしてるんでしょうが。
花輪和一はそれまで、中世を舞台に妖魔が登場する
ドロドロした民話のような物語ばかり描いてきた人だったので、
こんなユーモラスなエッセイ風の物を描くとは意外でした。
確かこの作品で手塚治虫賞をもらうはずが、辞退したそうです。
そんな大きな賞を辞退するのって、花輪和一らしくてかっこいい。