昨日の夜は、古い友人たちとずいぶん飲んだ。
相変わらずだ。
ぶらっと飲んで、近況をちょっと話して、新しい遊びをしたくなる。
でも、もう町には僕らが望む遊びは転がっていない。
仕方がないから、僕らはただただ飲む。
僕は酔っ払って、少し偽悪的な気分になって、町を歩く人たちにつばを吐きたくなるけれど、寸前でガマンする。そんなことしたって何の意味もない。もう知ってるんだ。
タクシーで、友人と乗り合わせて帰る。
家に着いて、PCを立ち上げる。
彼が死んだことを知った。
そのニュースは大泉洋が年上のプロデューサーと結婚したニュースと並列で語られていた。
僕は酩酊していて、その見出しをクリックすら出来なくて、大泉さんの結婚のニュースをひとしきり読んだ。
読み終わって、TOP画面に戻ったが、やはり彼は死んだままだった。
記憶が逆流した。
あれは一体いつだったか。
12年前くらい?たぶん。
僕は彼のライブを西部講堂で見た。
今なお友人である伊藤君と見に行ったそのライブは、びりびりと空気を震わせて、心を沸き立たせ、僕の細胞の中で眠っていたロックを呼び起こした。今この場所で、この音楽を聴いている時間が、絶対に正解だと思った。音は僕の細胞の隅々までいきわたり、今に至るまで消える気配は毛頭ない。
友人と別れた後、僕は一番近くにあった電話ボックスに飛び込んで、ありちゃんに電話した。
深夜だったかな。ありちゃんはずいぶん冷めた感じで。僕はただただ熱くて。
「すごいライブを見たんだ」
「うん」
「音楽が会場を満たしていて、僕の身体にも深々と突き刺さったんだよ」
「うん」
「バンドが一つになっていて、みんなで同じ方向を向いていて、音の塊がこっちに向かって来るんだよ。
「うん」
「あんなバンドをやろう。ありちゃん」
「うん。やろう」
そんな会話。
確か20歳くらい。
バンドを始めて作って、まだ一年くらいの頃だ。
ふと、このまま起きていたら悲しくて身体が千切れちゃうんじゃないかと思って、一気に寝た。
夢は見なかった。
音楽を始めてすぐだ。
彼に声が似ているねと言われた。
嬉しくて嬉しくて。モノマネみたいな歌い方をしばらくしてた。
初めてギターで弾けるようになったのも彼の歌だ。
擦り切れるくらいビデオを見て、必死でコピーした。
MCをまねてめちゃくちゃすべったことがある。
「ロックンロールは死んでないよ。だって彼が生きてるやん」って言った事がある。
彼が死んだ今、ロックは生きてるのか、死んでるのか。どっちでもいいな、そんなこと。
何人かの人たちからメールが届いた。
死んだね。
残念だね。
悲しいね。
僕はたぶん、死んだ魚みたいな目でそのメールを読んで、今に至るまで返事を返していない。
この日記を書き終えたら、みんなに返事を書こう。
「君を呼んだのに」という曲が好きで、その頃付き合ってた彼女に聞かせた。
暗い曲ねと彼女はいい、僕はそうだねといった。
こんなに、そのときの僕にぴったりの曲はなかったんだ。
バイクを飛ばしてもどこへも帰れない
バイクを飛ばしても帰りつづけるだけのぼくらは
寄り道をしてるんだ
描き上げたばかりの自画像をぼくに
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが見せる
絵の具の匂いにぼくはただ泣いていたんだ
自動車はカバのように潰れていたし
街中が崩れた
それで君を呼んだのに
それで君を呼んだのに
それで君を呼んだのに
君の愛で間に合わせようとしたのに
親愛なるブロック塀
その向こうに意地悪く
ぼくから取り上げたものを
隠したりひやかしたりは
もうしないでくれよ
クスリを飲んで眠れ 副作用で起きて
何を見せびらかそう
それで君を呼んだのに
それで君を呼んだのに
それで君を呼んだのに
それで君を呼んだのに
それで君を呼んだのに
君の愛で間に合わせようとしたのに
残念ながら僕には、彼女の愛では間に合わなかった。
たくさんの気持ちを抱えたまま、今日も眠ってしまおう。
たぶん、あと何日かしたら泣くと思う。
*POSTを押しても自分のコメントが見えない場合、一度ページの更新をしてみてください。
*HTML不可です。
*アドレスは入れると自動でリンクになります。
*管理者の判断でコメントを削除することがあります。