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2009年03月11日

 自分のためのテキストを書かなくてはならない。
 何かを訴えるのでもなく、何かを遡及するためでもなく、ただ僕のために書かれるテキスト。
 僕の毛穴から入り込んで、そっと脳髄あたりをくすぐって奥のほうのコリみたいなものを解きほぐすテキストだ。

 こないだの土日に一カ月ぶりに休んだ。ちゃんと休暇をとった。
 休むってのはもう技術だ。ぼーっとしていたら働き続けてしまう。そしていつか倒れるんだろう。そんなのカッコ悪いから、僕は休むことを人生に取り入れることにした。休むことで忙しさが倍増したとしても。

 こないだの日曜日に僕は夜の7時くらいに一人で木屋町あたりに立っていた。ちょうど打ち合わせが終わったところ。そのあと夜11時半から木屋町でとある会合に出る予定があった。それはある種のパーソナルなパーティーだったのだけど、仕事とも微妙にリンクしていたし、出席したいと強くおもっていた。

 帰ってもよかったのだけど、なんとなくぶらぶらしてみた。それってとても休日っぽい。
 日曜日の夜に木屋町をぶらぶらするなんてとても休日だ。
 問題は一人でぶらぶらしてるってところくらい。

 木屋町は知っているお店が激減していた。ほとんど何もなくなっていた。
 ククアフープもなくなってるなんて知ってた?
 知り合いがやっている店なんて皆無だった。

 歩いているとたくさんの客引きに声をかけられた。
 風俗とキャバクラ。
 僕の風貌がそういうものを求めているように思われたんだろうか。
 ものすごく声をかけられる。僕は女の子と話すために喜んで一時間6000円払ってもよい年齢になっていた。
 
 年をとったのだ、と思う。
 僕は年をとって、この街には知り合いはおらず、声をかけてくるのは客引きだけだ。
 そもそもこの街は変わってしまった。
 僕はこの街のこの道でマーチンのアコースティックをかき鳴らしひたすら歌い、たくさんの人と出会った。
 音楽が直接人の心を揺らすことを僕はこの街で知った。

 僕が10年前に歌っていた場所には警察がなぜかいた。
 動く気配はない。
 何かを見張っている。
 jasracでも見張っているのかな。
 とにかく、もうここには寒さをこらえてアコースティックギターをかき鳴らす若者はいない。

 10年が経った。
 僕はこの場所で出会った何人もの女の子と飲みに行った。
 弾き語りで稼いだお金で、弾き語りに立ち止まった女の子と。
 僕はそのころ少し男前の友人と週末に木屋町で歌っていた。誘ったらみんな一緒に飲みに行ってくれた。
 それは音楽が縮めた距離だったし、少しだけ火薬のにおいのする夜の風景だった。

 いまやここは僕の場所ではなく、僕の時代でもなく、誰かのための場所だった。
 もちろんそれでいい。
 どの空間も誰かが永遠に支配することはできない。
 ただ、ちょっとさみしかっただけだ。

 僕は今何をしているだろう。
 まっすぐ音楽に向いて立っているか。
 立っていない気がする。
 音楽のために生きているか。
 それも違う。
 時間が流れた。

 でも僕が生きていく上で音楽はずっと不可欠だろう。
 僕は歌い、曲を作り、言葉をそっとのせる。
 ねえねえ聴いて下さいよ。ちょっとイイ曲が出来たんですよ旦那。
 木屋町の客引きのように誇り高く音楽を垂れ流そう。
 僕の目に映っているのは10年前の木屋町だ。
 僕はそのころ「そろそろ」という曲を書いた。

 そろそろ僕らそろそろと 歩みの幅はせまくとも
 そろそろ僕らそろそろと 湿った歌も歌えるな
 できないことはやらないが そろそろ僕らそろそろと
 切り立つ岩場にそびえ立つ ゆるがぬ強さへそろそろと

 歩いても行くこんなとこ 問題ないといえばないし
 ゆるやかな丘を乗り越えて 浅い川ならばしゃばしゃと
 怖い映画はみなかった 辛いカレーは食べなかった 
 高いところはいやだった 届かぬものは追わなかった
 温かいまま膝抱え 眠い時にはまどろんで
 ほしいものには手の届く 小部屋の中で幸せだった

 そろそろ。

 そんな歌だ。
 なぜか疲れたサラリーマンに絶賛された。
 そういえばあの歌はしばらく歌っていない。なぜだろう。今のおれには子供っぽ過ぎるのか、まぶしすぎるのか。 
 まあ、いいや。
 今はそれはどうでもいい。

 さあ、物語をつくろう!
 現実を凌駕する物語を。
 誰かが作った稚拙な物語に僕らは圧勝しなくてはならない。
 隠れているものを白日の下に晒す、心の一番深い所を照らす物語だ。
 どこかから届くのではなく、僕らの内側に必ず間違いなく潜んでいるその物語を僕らは語らなくてはならない。
 世界は今、物語を求めている。物語のない世界に意味などあるだろうか。 
 愛も恋もそれは物語の中に。

 今流れた一秒は、君の物語を構築するために必要不可欠な一秒だ。
 50億年など、物語の前では一瞬と同じだ。
 一秒は拡大され永遠に近づき、僕はその物語のハイライトシーンで眠る。

 ひとつだけ聞かせてほしい。
 今僕がいるこの部屋は、物語なのか現実なのか。
 もうわからない。わかりたくもないぜ。

Posted by kato takao at 2009年03月11日 04:24 | TrackBack
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