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2007年10月23日

 東京で一週間過ごした。
 とてもゆっくりと過ごした。
 たくさんの話。美味しい食事。いくつかのショッキングなニュース。毎晩声がかれるほど話した。愛しい人たち。きらきらと時間が流れて、しょんぼりとかもして、いくつかのモチベーションを持ち帰ってきた。俺は多分恵まれているんだろう。ひとりぼっちでもひとりぼっちじゃない。
 友人と曲を作った。素敵な曲。きっといつか僕ら以外の誰かのことも素敵な気持ちにさせるだろう。
 ボロフェスタの話をたくさんの人に聞かせてあげる。人に話してるだけでも涙ぐんだ。なんてすばらしいイベントだったんだろう!
 東京在住三日目に、妹の子供が生まれたことを知る。「死ぬかと思った」という妹からのメールをなぜか何回も読み返した。
 プロに会う。東京で物を創る第一線にいる人。自分の浅はかさに気づいた。それも素敵な体験だった。
 法曹界の話。ラジオの話。恋について。失恋について。キャリアを積み上げるということ。パリについて。地図を書き換えるということ。SCRAPに出来ること。彼女の抱える退屈。僕の抱える焦燥感。彼の抱える根源的な哀しみ。彼らの持つささやかな悩み。
 靴とシャツを買う。マンガを一冊。今年はまだ良いジャケットに出会えない。
 牛丼。ラーメン。ねぎし。安くてうまい焼肉。新宿でおでん。上野でもつ煮込み。お味噌汁とご飯。つけめん。坦坦麺。光麺というラーメン屋にはいってはいけない。本当にひどいところだった。めちゃくちゃまずいし。もっとなにか食べたかな。覚えてない。

 東京のライブ。ライブ。ライブ。三回やって、三回素敵な気持ちになった。ステージが僕らにはあって、それが僕らがある理由だと思う。ステージが好きだ。ライブをやって、光を浴びて、大好きな言葉を大好きなメロディーに乗せて、大好きな人たちと歌う。ライブがあれば大丈夫なんだ。

 帰ってきたら仕事がたくさん待っていた。
 ボロフェスタが終わるのを待っててくれたのかい?
 OKOK。一生懸命働くよ。働かないより、働いてたほうがずっと楽しい。遊んでばかりの毎日なんてまっぴらなのさ。

 京都に帰ってきて、またたくさんの人に会って、ビールをたくさん飲んで、一個一個の細胞に水が戻ってきて、僕は日常にやっと復帰する。
 なんか、こんなことを今宣言するのは馬鹿みたいだけど。
 ボロフェスタが今日終わった。
 ほら、馬鹿みたいだ。

 最近心を貫いた言葉。
 おでん屋で、たまごをたべながら。
 身体感覚とリンクしない思想は意味を成さない。

 今日。
 妹の子供に会う。
 俺の甥だ。
 小さい。動いてる。すごく哀しそうに、苦しそうに泣く。まだ笑わない。
 そうか。やっぱりまず哀しみを覚えるのか。みんなそうなのか。俺の甥だからか。
 俺が触ると嫌そうな顔をする。生きている。
 受け継がれていく何かを見た。
 ずっと昔から、言葉もなく受け継がれてきた尊い約束を見た。
 これがあれか。

 君が今から出会うたくさんの哀しみは、きっと君の中にとどまり続けるだろう。
 君の目玉はどんどん濁っていく。君は汚れた景色もその目に焼き付けるからだ。
 いつかギターを弾きたいと思うだろうか。
 もちろん僕に教えてとせがんではいけない。僕はズルばかりしているからね。
 でも、簡単なコードでとても素敵な曲を作る方法を教えてあげるよ。
 それから、頼むからくだらない歌詞を書くような男にはならないでくれ。
 ああ、音楽をやらないかもな。
 やらないなら、何をつくるだろう。
 なにもつくらないかもな。
 でもせめて、何が好きで何が嫌いか。何を面白いと思い、何を面白くないと思うかは自分で決められる男になってくれ。誰かが面白いと思っているものを自分も面白いと思ってしまうような男にはなるな。
 今日、君の頭にそっと触った目つきの悪い33歳の男は、君が20歳になった頃53歳になっている。
 今よりもっと醜く、臭く、愚かになっているかもしれない。
 でもきっと、その時も俺は簡単なコードで曲を作る方法を知っているだろうし、何が面白いかを自分で決めてるだろう。そして俺は君の幸せを強く願いながらも、もっと強く自分の幸せを願っているだろう。
 そういえばまだ俺は君の名前も知らない。
 名前も知らない誰かの幸せを願ったのは初めてだよ。
 なあ。君が運んできた幸せを、君は知ってるか。君のおばあさんは優しく君のおでこにキスをして、君のおじいさんは何も言わずただ目をいつもよりやさしくしていた。君のお母さんは眠っている君に話しかけ、君のお父さんはそれを見ながらビールを飲んでいた。俺はそんな君のお父さんを見ながらビールを飲んだよ。
 
 また会おう。
 いつか、君は僕と出会うだろう。
 君にプレゼントがある。
 君のために曲を作ったんだ。
 それを聞くときがあるだろうか。ないかもな。
 でも作った。
 それが君の叔父だ。君の叔父さんは世界に俺しかいない。だから大切にしてあげな。
 俺は今、俺の叔父さんから仕事をもらってる。そういうことだってあるからな。俺に優しくするんだよ。

 昨日。ほのかな朝焼けを見ながら、車の中で話をしていた。
 なんの話だったか覚えていないけれど、未来についての話だった。

 明日もし目覚めたらまた出会いを交わそう。

 未来がこんなに素敵かもしれないなんて。
 なんて素敵なことなんだろう。

Posted by kato takao at 2007年10月23日 04:57 | TrackBack
みんなのコメント

なんでかってうまく言えないですが、
だからわたしは
加藤さんの書かれる文章が好きです。
いつか甥御さんがこの日記を読んで
笑ってくれる日が来るといいなと思います。

Posted by: はったみさと on 2007年10月23日 21:37

かとうさんの思想、つうか言葉は、
身体感覚にリンクしている。
なので、信頼できるんだな、とおもった。

名前も知らぬかとうさんの甥っこさん、
ご誕生おめでとうございます。

Posted by: R D on 2007年10月23日 23:53

光麺はラーメンを食べる所ではない。
プリンを食べる所なのだ!

と友人がいってました。

Posted by: ななこ on 2007年10月25日 01:30

叔父じゃなくて伯父でしょう。

Posted by: K on 2007年10月28日 17:13
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