« アルバムと練習とライブ | Main | アリバイと40人の盗賊 »
2006年09月07日

 突然夏が終わってしまって、寂しくなる暇もない。
 僕の周りの夏が嫌いな友人たちでさえ「今年は突然だったからうれしくない」といっていた。
 まだもうちょっと暑い日もあるだろうけど、この涼しさはなんだか不思議だ。
 温度とともにさまざまなものが奪われていった気がする。

 結局のところ問題はその不誠実な生き方にある。
 僕は次から次への目の前にやってくるトラブルにのみ対処して、トラブルが終わったらトラブルの種を作る。自分で起こした殺人事件を自分で解決する刑事のようだ。僕は次々と犯罪を思いつき、実行に移し、解決する。

 アルバムに関してものすごくたくさん話した。
 それについてのテキストも書いた。
 そして今も書かなくてはならないテキストがいっぱいあって、ぜんぜん手が追いついていない。
 すいません。
 俺は自作を語るより、俺の作品をみなさんがどんな風に聞いてくれるのかの方がずっと興味があるのだけど、なかなかアルバムが発売されない。あと一週間か。心から待ち望んでいます。

「世の中ってのはお前が思っているより馬鹿だからね」と彼は言った。「そんなお前にだけわかる音楽をやってたって意味がないよ。」
 僕はああ、またその話かと思いながら「そうだね」と言った。
「あのさ、聞きたいやつが聞きに来るのはあたりまえなんだよ。別に聞きたいと思ってない奴の耳にどうやって届かせるかを考えなよ」と彼は言う。そして最後に思いやりのように付け足す。「おれはお前の音楽がとても好きなんだよ」
「ありがとう」と僕は言ってみるけれど、別に二人の親密さは深まらない。僕は彼の言っていることの意味が良く分かる。でも、結局のところそれは見解の相違というやつだ。けっして埋まることのない溝。防弾ガラスの向こう側とこちら側。パラレルワールドの一つずれた世界。
「音楽で生活していきたいから会社を辞めたんだろ?」と彼はいう。
「うん」
「で、なんでこんな音楽やってんの?昔の曲のほうがずっとよかったよ」
「うん」僕はビールを飲む。
「ビジネスってのはきちんと買い手の顔を思い描いてから始めるもんだよ。なんでお前はいつも自分の思いつきに周りをあわせようとするの?」
「うーん」僕はビールをごくごく飲んでいる。ビールを飲む以外にやることがない。
「おれはほんとに応援してるんだよ」
「ありがとう」
「おれの嫁さんだって応援してる」
「ありがとうって伝えておいて。そういや子供は元気?」
「もうすぐ二人目が生まれる。子供って面白いよ」
「ああ、そう。子供は嫌いだ」
「そんなこといってる奴に限って子供が好きになる」
「みんなおんなじこと言うなあ」
「お前もう結婚したら?いくらなんでも無駄にいろいろと動きすぎてない?」
「うーん」またビール。
「別に説教するわけじゃないけどね」
「いや、うれしいとおもっているよ。本当に」
「ならいいんだけど」
「うん」
「うん」
「ビールもっと飲む?」
「うん」
「じゃ、買いに行こう」
「うん」
「あ、俺金出すよ」
「なんで?」
「なんとなく」
「じゃ出せ」
「うん」

 僕らはふらふらとコンビニにビールを買いに出かけ、高校の時のようにエロ本コーナーで足を止める。知らない人ばっかりだ。特に会話もなくなんとなく一冊手に取る。気が狂ったような顔をした女が胸を千切れそうなほど上へと持ち上げている。なんだこりゃ。力自慢の写真か?ぱらぱらとめくる。別になにもない。綺麗な女性が脚を開いている。最近は僕のために脚を開いてくれる人以外にあまり興味がわかない。
 昔はキャンプに行った先で、よくエロ本を燃やした。適当に見て、さっさと燃やすと、どんなつまらない本でも役に立った。もちろん、エロ本はそれ以外にもいろいろと役にはたったけど。
 ビールと少しだけつまみを買う。

 家につくとまたビールを飲みだす。
 僕は彼に新曲ができたんだ、といってPCに入っていた作ったばかりの曲を彼に聴かせる。
「これはすごくいいな」
「あ、ほんと?」
「うん。昔のお前の曲みたいだ」
「なんやそれ」
「いや、でもほんとにこの曲はいい。おー、すごい。終盤さらにいい。これはめちゃくちゃ俺好きやな。この曲ならもう周りの奴みんなに薦めることが出来るよ」
「そうなの?」
「うん。これはすごい曲だ。俺は音楽は素人だけど売れそうな気がするもん」

 とか、
 そんな2005年12月の会話。
 その直後にロボピッチャーはアルバム製作に突入する。
 ロボピッチャーのレコーディング中に時々彼の言葉を思い出した。
 相容れない言葉。違う世界の人。
 でも、その彼と僕を繋いだのはファンファーレっていう曲だった。

 ファンファーレが宣言したのは、別に俺はただひとときひとときを丁寧に生きてますよってことだけだった。
 僕はでも、彼の名前を、歌詞カードの「thanks」のところに載せたんだ。誰にも内緒で。こっそりと。

 
 いつもより少しだけ確かな結末を見ている。
 エロ本の表紙を飾った、胸の大きな女性が見つめていたものと同じくらい確かな物。
 長い長い映画の途中で見つけた、取り返しのつかないパラドクス。
 幕が下りた後で、満場の拍手の中で罵り合う役者たち。顔の綺麗な女と綺麗な体の男たち。火曜日にセックスした男と、水曜日にセックスした男が喧嘩している。「この女は俺のものだ!」女はすました顔で「さあカーテンコールよ。演じられないのならステージからおりなさい」
 彼女はマニキュアを塗りながら、この手で触るはずの何かに思いを馳せる。そこにある暖かさと、そうではないおぞましい何かについて。
 飛行機が飛んでいく。
 整備不良の煙を上げて。
 どこまでもは飛べないけれど。
 それでも何処かに届くだろう。
 
 そのうち僕は彼女にキスをして。
 「ほらね。僕がいったとうりになったろ?」っていう。
 そんな結末。

 どうかせめて恐れずに。

Posted by kato takao at 2006年09月07日 04:45 | TrackBack
みんなのコメント
comment する

















*POSTを押しても自分のコメントが見えない場合、一度ページの更新をしてみてください。
*HTML不可です。
*アドレスは入れると自動でリンクになります。
*管理者の判断でコメントを削除することがあります。