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2005年02月17日

 冬の中のやや暖かい日に、僕は一つの仕事を終えて、ライブも終えて、やっと少し落ち着いた気分で、この日記を書いています。
 時間は夜の2時を回ったところ。
 耳をすまして聞こえてくるのは、時計の針の進む音と、僕の指がキーボードを叩く音です。
 僕はエンジ色のジャージをはいています。数時間前までは綺麗な形の黒のパンツをはいていました。
 両手の甲に血管がくっきりと浮き出ていて、まるで何かのサインのようです。じーっと見ていたら「死」とか「殺」とかいう文字が浮んできそうです。
 マウスを動かして、いくつかのボタンをクリックして、このページにたどりついて、日記を書き始めました。書く内容も決めずに、ただ、なんとなく文字が書きたくて。
 隣のソファーにはギターが立てかけてあります。今日使ったギター。買ってから、8年くらい経ちました。最初は町で弾き語りをするために買ったのですが、あんまり大きな音が出ないので、使いづらかったです。僕は声が大きくて、夜の街の喧騒の中で歌っても、町の隅々まで染み渡るみたいな声で歌うことが出来ました。たくさんの人の前で歌って、たくさんのお金をもらいました。僕は、そのお金でビールを買って、そのビールで歌を歌って、その歌でお金を稼ぎました。そして、すべてのビールは小便として出て行き、僕の声はくたびれて、あんまり大きな音の出ないギターだけが残りました。

 前も書いたかもしれないですが、このギターは、パチンコで買った金で買いました。お金なんかぜんぜんなかったけど、パチンコで3万円くらい勝ったときに、そのお金を頭金にしてなんとなく買いました。ずっと欲しかったものを、やっと買ったって感じじゃなくて、たまたまお金が手に入ったので、なんとなく買いました。愛着もなく。特別な思いもなく。
 僕は、このギターでたくさんの曲を作りました。僕は曲を作るときには必ずギターを持つので、ロボピッチャーのほとんどの曲は、このギターで作られたのだと思います。ロボピッチャーのほとんどすべてのライブもこのギターでやってきました。最初の一回目か二回目位の時はエレキギターでライブをしたこともあった様な気もするけど、覚えてない。とにかく、ほぼ100%このギターで演奏してきたのです。
 ギターは僕の汗を吸い、乱暴に扱われてきたためあちこちに傷がついています、というより、裏側にははっきりと割れ目が入っていて、ギターとしては普通ではちょっと考えられないくらい傷んでいますが、僕にはそんなこと関係ありません。ギターに汗がついても拭かないし、傷がついてもメンテナンスなんてしません。弦を押さえておくなんか変なピンみたいなやつも変えたことがない。
 ギターじゃないか。たかが。
 壊れたら次のを買うし、そのときもまた、適当に目に付いたものを買うでしょう。
 次のライブでも、僕はギターを掻き毟るように弾いて、また新しい傷をつけるでしょう。
 たかが、ギターだ。
 そして、
 僕がこのギターをどれほど好きかなんて、だれにもわかんないんだろうな。
 当たり前か。

 壊れたら次を買う。 
 たぶん、僕は哀しがらない。
 好きだったことも忘れる。覚えていてもしょうがない。次のギターを好きになる。

 大切なことってなんだろう。
 僕は時々、人は自分の人生に意味を持たせすぎなんじゃないかと思います。

Posted by kato takao at 2005年02月17日 02:40 | TrackBack
みんなのコメント

おお!同感だ。

Posted by: 鶴坊 on 2005年02月23日 23:02

きのう、ある映像を観た。

大学で観た。

職員さんが淹れてくれた、熱いフルーツテイをすすりながら観た。

最初に映し出された男の人は、チョコレートのような色の肌だった。その色のまぶたに、白目がよく映えていて、きれいだ、と思った。

キューバの国の人だと言う。

彼は、ギターを弾いた。そして歌った。

つぎは、コーヒーのような肌色の、女の人。

つぎは、片手を失った、ひげのおじさん。

つぎは、白いタンクトップを着た、おかあさん。

つぎは、しわくちゃのピアニストの、おばあちゃん。

みんな、楽器を弾いて、歌った。

呼吸をするかのように。汗を流すかのように。笑うかのように。涙をながすかのように。

からだから、音楽がにじみ出ていた。

わたしは、音楽がすきだ、とおもった。

単純に、そうおもった。

ジャンルがどうとか、世代がどうとか、コードがどうとか、思想がどうとか、知識はほとんどない。

だから、音楽について話すとき、すこし引け目を感じていた。

音楽を聴くときも、身構えるくせがついた。

フルーツテイをすすりながら、ばからしくなった。

なんだ。

ただ音楽が好きなんじゃん。

なんか知らんけど、好きなんじゃん。

それからわたしは、職員さんにお礼を言って、友達と話をして、帰った。

自転車をこぎながら、スピッツの「ジュテーム?」を歌った。

とてもいい歌だ、とおもった。

Posted by: ドモン on 2005年02月26日 16:22
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