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2004年08月26日

 不思議な話だ。そしてくだらない。

 君は夕日に向かって手を合わせ、僕は朝日を見て涙ぐむ。
 なぜ君が朝日ではなく、僕が夕日ではないのか。
 そんなのどうでもいいと思わない?

 僕が爪のはがれる夢を見て脂汗をかいているころ、君はどこかで絵にもできないような快楽に興じている。
 僕と君の間にはビードロ紙みたいな壁があって、壊そうと思えば壊してしまえるのだけど、美しすぎて壊すのはもったいない。
 君は僕がなんでもできると思ってるみたいだけど、コガネムシ独り殺せない軟弱者なのです。ただ、僕は考え、緋色にくすんだ朝焼けに、なんとか水色の水彩をのせられないかと、夢想しているだけなのです。

 ひび割れた便座から、ロマンが生まれた。
 襦袢をたくし上げ、密やかに用を足そうとした、かの人の悲哀を受け止めて。
 そのひびにしっかりと挟まった脂肪は、時空を超え、ユーラシア大陸を超え、いつかのラブソングとかも越えて、この密閉された小部屋にだけ響く、ささやかな叫び声になるのだろう。
 君は「痛い!」と叫ぶ。
 僕はそれを聞けないが、もう聴いたつもりで笑っているのさ。

 墓石にはこう刻んでくれないか。
 「墓標を求めなかった男」と。
 洗濯物を取り込むことは忘れても、墓標のことは忘れない馬鹿だった。
 僕は薬指に怪我をした。血が滴り落ちる。もうギターは弾けない。夢だと思うけど、本当だとしても、僕はそれを乗り越えていく。墓標は求めない。先月の電話代の振込みは忘れても、墓標の言葉を忘れることはないが。

 金色の大便が出たって。
 パンダのうんこはくさくないんだって。
 あなたのうんこが金色なのが、いったいなんの役に立つのか。
 いえいえ、あなたはわかっていない。誰かの役に立つことが大切なのではなくて、誰とも違うことこそが、大切なのです。
 わたしは、世界を変えるから、変られないあなたとは立場が違う。

 僕はまだ悪夢を見てる。
 指がちぎれ落ちた。ギターが弾けないな。
 夢なのか。夢じゃないのか。
 どっちでもいい。夢なら夢で。夢じゃないなら夢じゃないで。僕は緩やかに泣き喚き、緩やかに死んでいく。緩慢な自殺を繰り返し、いつか成功して土に還る。
 再びこの地に生まれることを、望まない。
 できたら、うんと遠い場所で。少なくともここではない場所で。

 ビードロ紙の向こうで君は、僕とは違う笑顔のまま、冷たい笑顔のまま、魂の音を聞きながら、やはり緩やかに死んでいく。
 冷たくなったあなたの体を抱きながら、僕は温かかったあなたのことを一番確かに思う。

 光陵の夜。紺碧の空。緊縛の時。諒伯の朝。
 欄干を周り、黎明を避け、集いながらも、散開。
 珍獣の都、跳梁の軌跡、老来は見る、あえて便所のラクガキを。
 「もし世界が間違っているのならば、変えてしまえばいいさ」
 未来からは赤鉛筆のにおいがする。
 僕はまた泣いている。
 このビードロが焼け落ちたら、僕らは小指を差し出して、赤い糸なんかがないことを確認して、やっと契@#。
 うまくいえない。うまくいわない。

 珍重の言説。
 簡略のメッセージ。
 受け取れないのではない。届けようと思っていない。
 ここであること。ここにしかないこと。こうとしかいえないこと。この完璧な理不尽。

 たすけて。
 そうか。

Posted by kato takao at 2004年08月26日 08:56 | TrackBack
みんなのコメント

読んでなんだかドキッとしました。かなり興味深くて、普段は手にしないぶ厚い本を、一気に読み上げてしまったような感覚が残りました。かとうさんの伝えたいことは何ひとつ拾えてはいないのかもしれないけれど、この言葉を追う行為そのものに快感をおぼえながら(これって愚かなことなのでしょうか)。そしてまた読み返し。

Posted by: まる on 2004年08月27日 23:57
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