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2003年05月24日

 あなたは腕時計をしている。
 別に急いでいるわけでもないのに、さっきから5分に一回の頻度で腕時計をみる。
 なぜだろう。

 なにかがおかしい。
 なにがおかしいのかは、はっきりとはわからない。
 でも、致命的に何かが狂っている。
 時間?
 今ほんとは6:23なのにこの時計は6:38を指しているのではないか。
 あなたは確かめてみる。こんな時のためにあなたは携帯電話を持っている。
 「たとえ少しくらいおかしなことがあったって、わたしはきちんと対処して、やりすごすことができる」とあなたは思っている。
 117を押す。
 乾いたトーンの女が、冷徹な声で時刻を告げる。
 「まもなく、6:23ちょうどをお知らせします」
 ピ・ピ・ピ・ピーン。
 あなたは自分の腕時計をみる。間違っていない。
 むしろ、この時報を告げる女の声の方が間違っているような気がする。しばらく聞いていたら「ぶふっ」っと笑い出すのではないか。ひょっとして彼女は笑いをこらえているのではないか。
 あなたは、まるまる20分も時報をを聞き続ける。もちろん、なにも起こらない。あなたは、諦めて、電話を切る。

 それでも、あなたはまったく安心できない。
 今わかっていることはなにかがおかしいってことで、なにもおかしくないってことはありえないのだ。もっと根源的で決定的な間違いがある。それがなにかがわからない。

 リバース。
 そう、リバースなのだ。
 あなたは、昨日友人とやっていたカードゲームを思い出す。リバース。
 自分の順番がやってくると思っていて用意したカードを出せない。あなたの前の人間がリバースのカードを出したのだ。突然、秩序は乱れ、当然のようにあなたの順番は逆に遠ざかっていく。
 「そんなバカな話があるだろうか?」とはあなたは思わない。なぜならそれは、歴然としたルールであり、それもまた秩序だからだ。
 むしろ「しかたがない」とあなたは思う。そんなことにまで文句を言っていては、この世界では生きていけない。

 あなたの腕時計は逆向きに回っている。
 それでも時間を正確に刻んでいる。
 あなたはそのことに気づいている。
 でも。なにかが違うと思うそのなにかが、それだとは気づいていない。
 あなたの腕時計は逆向きに回っている。
 正しい方向ではない。でも、なにが正しいかなんて、だれが決めることなんだろう。
 あなたは、それに気づかない。ただ、なにかがおかしいと思っている。
 まるでリバースのようだと。
 また今、あなたは時計を見た。
 さっき見たのは4分と28秒前だ。
 まあいいや、とあなたは思う。
 時間は正確だし、あなたの日常に影響があるわけでもない。
 ただ、「なにかがおかしい」と思いつづけていなくてはならないだけの話だ。

 ところで、これは、だれの話なんだろう、とあなたは思う。
 ひょっとして、わたしのことなんじゃないか。
 これは、あなたの話なんだろうか。それとも、僕の話なんだろうか。
 世界がぐるぐると回っている。リバースに次ぐリバース。
 上と下が右と左が静と動が正と邪がリバースに次ぐリバース。
 なにを信じてやろうか、なにを信じずにいてやろうか。
 さて、あなたは、なにを信じてみるのだろう。
 リバースだ。
 
 これは、あなたの話だ。
 あなたの、話だ。 
 話だ。あなたの。
 リバース。
 スーバリ。
 バリース。
 まるでまるでまるでなにかのようだ。 
 まるでまるでまるでなにかのようだ。
 までるでるまでるでまるかになうだ。

 冷蔵庫の音がうるさい。

Posted by kato takao at 2003年05月24日 03:33 | TrackBack
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