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2024年09月12日

「学校の77不思議からの脱出」の企画が動き出したのは去年の春で、代々木にあるSCRAPの事務所にヨーロッパ企画の上田君と酒井君が打ち合わせにやってきてくれた。
僕はそもそも彼らの演劇公演である「ギョエー!旧校舎の77不思議」という作品が大好きで、あの作品の持つ膨大なエネルギーと、そのエネルギーが小さな怪異の集積から生まれていることに強い憧れみたいなものを持っていた。
怪異とは本来そこにあるような当たり前のことであってはならず、物理法則を無視した不可解なことでなくてはならないはずなのに、ヨーロッパ企画の舞台上では滑稽かつ驚くべき怪異が縦横無尽に闊歩し、それらは特別なテクノロジーとは無縁で、ただただアイデアのみで構成されたすばらしい怪異たちだった。
いつかあんなものを作ってみたいとこっそり思っていたわけではなかったのだけど、ある時ふと思いついたあるアイデアとヨーロッパ企画の「ギョエー!旧校舎の77不思議」がぴたりとくっついて、むくむくとこのゲームが勝手に僕の頭の中で形になっていった。

人間も年を重ねてくると、少しずつ静かな場所を好むようになる。
僕はもともと若い時からそこまで騒々しい場所が好きだったわけではないけれど、それでも
今よりは騒がしい場所にウキウキと出かけていく回数は多かった。
最近はなるべく静かな場所に身を置きたいし、聴く音楽の質も静かなものに変わってきたし、歌舞伎町タワーの中にあるテクノ居酒屋みたいな場所ではビールを一杯飲み終わる前に頭の奥がじわじわと痛くなってくる。
世の中に溢れる刺激にちょっと身体が対応できなくなりつつあるというか、どうもそれが身の丈に合わない痛みのようなものに思えてくる。
リアル脱出ゲームにおいて、流ちょうに語り掛けてくる司会や、くるくると回る照明も、迫力のある映像も、チェックポイントで起こる驚くべき演出も、どれもこれもすばらしい熱狂を生むもので、その発展をうれしく思っていたし、誇らしく思ってすらいた。
でもふと自分の好みが少しずつ静謐なものに向かっていくことに気づいた時に、この感じを謎解きの中に組み込めないのかなあと思った。
例えばそれは静かな図書館でひっそりと調べ物をするときに生まれる心の動きだったり、何もない場所をじっと見つめていてふと気づく違和感のようなものだったり、当たり前のものが当たり前でないことに気づいた時の急に不安になるようなあの感じ。
そんなものを謎解きの世界にうまく持ち込めないかなあと思っていた時に、突然ヨーロッパ企画の「ギョエー!旧校舎の77不思議」が結びついた。

そうだ。
旧校舎を作ってしまえばいい。
そこには図書室があって、理科室があって、保健室だってある。
人気のないその場所で僕らは違和感を探す。
一見なんでもなく見える旧校舎。ただの古ぼけた木造の建物。まるでなにかが棲みついているようだけど、姿は見えない。気配はする。不思議な物音もする。でも姿は見えない。
なぜかあなたはその場所に来たことがあるような気がする。
ここはいつか思い描いた不思議な場所。
かつてたくさんの生徒たちが学んだ喧騒が壁や机に沁みこんで、それがかえって今ある静寂を強めているように思える。
目を凝らすとみつかる様々な違和感。怪異。
最新式のテクノロジーが必要ないことはヨーロッパ企画から学んでいた。
必要なのはアイデアと「それがそこにあるべき理由」だけだ。
つまり、僕はその学校があるための特別な物語を必要としていた。

去年の春、上田君と酒井君と話しながら、たくさんの怪異について話し、ギョエーを作るときの苦労話を聞き、じゃあ制作をはじめてみましょうと合意して、長い長い期間僕らは会議をして、嘘みたいな量のラインのやり取りをして、なぜだろう18ヵ月も時間があったはずなのに、最終的に「今晩中に脚本が仕上がらないともう撮影できない!」ってところまで追い詰められた。それが誰のせいだったのかは諸説ある。時空をゆがめる怪異がいたのかもしれない。

出来上がったゲームは、僕が想像していたよりも少しカラフルになった。
物語がすばらしいからだ。
そしてヨーロッパ企画の面々が登場する映像がとてつもなく芳醇にその世界を深めてくれているからだ。
それでもやはり、ぎゃっと声を上げて驚くようなシーンはないし、興奮して拍手をしたくなるシーンもない。この学校の中にある言葉は、あなただけに向けて小さな声で語られて、たくさんの怪異たちはあなたにみつけられるのをひっそりとただ静かに学校の埃の中で待ち望んでいる。

さて、あなたはこう思っただろうか?
それはなんて地味なゲームで、面白みに書けるのだろうと。
静かな場所を歩き回り、ただの間違い探しをするだけなんじゃないかと。
でももちろんそんなことはない。
そのただの「間違い探し」は精密さを極め、さらに物語と複雑に絡み合い、ひどくしっとりとした熱狂を生み出す。
図書館の隅っこで見つけた書き込みから、ミッシングリンクが繋がっていく。
別々に存在していた意味のないものが、繋がることで意味を成し、あなたの感情は大きく揺さぶられるだろう。

全6章の壮大な物語を体感できるゲームを作った。
このゲームには制限時間はない。
怪異渦巻く旧校舎の中で、自由に動き回り、隠された物語を導き出し、時には食堂で揚げパンとコーヒー牛乳を飲み(これがとんでもなく本当においしいのです!)そして霊と愉快な会話を交わすことができる。
あなたのペースで。あなたのやり方で。

そんなゲームを僕らは作った。
作れたことを誇らしく思うし、やってやったなと思っている。

長い長い期間一緒に走ってくれたヨーロッパ企画の酒井君と、黒幕となって酒井君を支えてくれていた上田君に大きな感謝を。あなたたちがいなくてはこのゲームは影も形もなかっただろう。
ヨーロッパ企画のみなさま。本当にご迷惑をおかけしました。映像撮影チームのみなさまには本当に心からの謝罪と感謝を。まだ続きます。引き続きよろしくお願いします。
このゲームを制作してくれたSCRAPのチームは大変だったと思う。まったく前例のない戦いに身を置き、わがままで日和見なディレクターのアイデアを形にするために奔走してくれた。ありがとう
SCRAP美術チームはおそらく世界でも有数の謎解きの美術を作るチームだろう。旧校舎が新宿のビルの三階に出来上がるなんて誰が想像できただろうか。完璧な仕事だったと思います。本当にありがとう。
一年半にわたって一緒にアイデアを出し続けてくれたクリエイティブチームは膨大な時間をこのプロジェクトに費やさざるを得なかった。本当に本当にお世話になりました。出来上がったものを見て誇らしく思ってくれていたらよいのだけど。
TMCのスタッフの運営能力は目を見張るものがあった。きっとこれからやってくるお客さんたちが得る深い満足は彼らの卓越した仕事ぶりのおかげってことになるだろう。
クラウドファンディングに協力してくれたたくさんの人たちもありがとう。自分たちが作っているものを楽しみにしている人たちの存在が、僕らをずっと励ましていました。

この物語は全6章でまだ始まったばかり。
今はまだ1,2章だけが公開されている。
入れない場所もあり、解けない謎もたくさん隠されている。
そういうのを見つめながら未来に心を馳せて楽しみにしてくれたら望外の喜びです。
未来に楽しみができるのは、生きていく喜びの一つになるから。

どうか1人でもたくさんの人たちがこのすばらしいゲームを遊んでくれますように。
それは静かな熱狂を生む謎解きゲームで、本当の意味で物語に没入できるゲームで、今この世界にこれよりおもしろいものは一つも存在しない!と少なくとも僕だけはこっそりと信じているのです。

https://realdgame.jp/s/77fushigi/

SCRAP 加藤隆生

Posted by kato takao at 2024年09月12日 15:05 | TrackBack
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