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2009年01月20日

 漠とした不安の中ビール。
 向かうべき先はわかっているのだけど、向かうべき場所がわからない。
 月影の荒涼。
 ガソリンのにおい。
 アスファルトの冷たさは切れかけた糸。
 この街は凍っている。静けさは痛みにも似て。

 ふと電話が鳴る。「お久しぶり」と。
 僕は彼女がだれかわからない。
「君は?」
「わからないなんてひどいわね」彼女は憤慨するでもなくいう。その声は不必要に艶やかで、やわらかい部分を切り裂く。
「ヒントだけでもくれないかな」
「ヒントの出しようなんてないわよ。それくらい近い場所にいたのよ」
「じゃあわかった、君は」
 そこで電話は切れる。
 僕は電話をしばらくもったまま立ち尽くす。
 彼女が誰なのか実は今も分かっていない。

 混濁の音。
 聞き分けられないリズム。
 なあ、そのギターはチューニングがあっていないのではないか。
 彼女はいう。「チューニングがあっていたってダメな音楽はいっぱいあるでしょ?」
 確かにそれは正論のようにも思える。ならばチューニングがあっていない音楽がダメとは限らない。
 僕は夕暮れ時について考えている。あの日の夕焼けから何曲も曲をつくった。

 爪を切るのは、ギターを弾くためだけではない。
 僕の指はいつか君に触れるだろう。
 うまくいけば、もっと内側まで入るかもしれない。
 しかしそれは、今ここでは語る必要のないことだ。
 なぜなら君が誰かも僕にはわからないからだ。

 また電話が鳴る。
 さっきの彼女だ。
「あなたは間違うことなんてないの?」彼女の声はかすかに震えていてさっきまで泣いていたようだ。
「僕は間違うよ。でも、間違うことを認めたふりはしない」
「じゃ、あなたは今幸せなの?」
 僕はその直後に電話を切る。
 幸せかどうかは、君などに話して聞かせることじゃない。

 君と僕はつながっているだろうか。
「君」とはつまりこのテキストを読んでいる「君」のことだ。
 このblogをディスプレイ越しに見ている君のことだ。
 君は僕のテキストをどう思っているのだろう。
 どう思ったとしても、
 何かを思ったのなら、
 もうつながっているのだと、
 僕は思ってもいい?

 便器から流れていく汚物をみて、生き物としての尊厳を知った。
 
 ねえ、忘れないで。
 僕は生きていて、今日も君を想っている。

Posted by kato takao at 2009年01月20日 04:44 | TrackBack
みんなのコメント

加藤さんの言葉は私の心の中に染み込んできて、根底を揺さぶり続けてくれます。
多分きっとつながっているんだと思うよ。

日記も楽しみだけど、早くライブをしに来て欲しい。
ライブで東京に来てください。

Posted by: n on 2009年01月21日 00:13

かとうさんの言葉って
こう
真正面に顕れて
すーっと手が伸びてきたと思ったら
心の奥の方をぐわーっぐちゃぐちゃーって
引っかき回される感じですよね

鋭くて、でも優しい
本当にステキな言葉を紡ぐ方だと思います

これからもそのままで…


Posted by: mina on 2009年01月22日 22:04
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