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2006年12月17日

 コンクリートのイメージ
 切れかけた糸のように冷たい
 世界で最後の妊婦が希望について語った言葉のように

 FAXが届けてくれるのは待っていたニュースではなく、ただのトピックスで、あ、もしもし、もう結構ですよ、僕には忘れられない物語がありますから、彼女をストッキングで殺したのは僕ではありませんよ。
 ストッキングで殺されたのは、ブルーと呼ばれていた女。
 始まりはいつもブルーだ。もちろん殺人は続く。続いてレッドで、イエロー、グリーンを乗り越え、最後はブラックで枯れ果てた。
 すべての手口は同じ。ストッキングで首を絞める。なぜか彼女達に苦悶の表情はない。パンティストッキングはその本来の役割のように、優しく首を包んで殺す。

 浮かんで消える。浮かんで消える。
 消えたままでいてくれたらいいのに、だいたいいつも浮かんだままだ。
 忘れ物は15年前の引き出しの中に。あのときタイムマシーンが僕の引き出しにやってきたら、こんなことにはならなかったんだ。

 コンクリートのイメージ。
 何よりも硬く、圧倒的に無機質。
 生も動もない。
 絶望的に高く、また広い。魚眼レンズで見た空のようにそびえ立ち、絶対冷度の歌だけが反駁される。

 僕は耳かきを武器に立ち上がり、世界に壊せない物などないのだと理解する。
 その確信は時を越え、君の耳のかすになった。

 あらゆる物に立ち向かい、緩慢な自殺を繰り返し、いちいちだらだら騒ぎながら、極彩色の中死んでいく。
 聞こえるか。


 君がいなければ生きていさえいられない。
 君は興味なさそうにうなずく。
 君がいなければ生まれてさえこられなかった。
 君は少し笑って、それは嘘よという。
 君に言っておくが、それが嘘かどうかは、誰にもわからない。

 コンクリートのイメージ。
 僕は耳かきで立ち向かう。
 崩れる予感はない。
 あと少し。
 あと少しで僕はあきらめる。
 いつか何かを壊す夢を、もうすこしで見ないようになる。

 混濁の目で見つめる。
 愛欲の匂いを嗅ぐ。 
 夕暮れの言葉をあやつり。
 こうもりのささやきを聞く。

 「ねえ、赤ちゃんを産むときって、上唇を上に引っ張って目隠ししちゃうほど痛いんだって」と彼女は言った。
 しかし、彼女は続けた。「でも、そんなことやったことある人いないから無駄な喩えよね」
 そうだね、と僕は笑う。彼女も笑う。
 二人の間に浮かんだ、上唇を上に引っ張って目隠ししている映像は、おぞましくも愉快だった。

 コンクリートが見た夢。
 それを愛と呼ぶ。
 くだらないまま生き延びて。
 それも愛と呼ぶ。
 
 彼が教えてくれたのは、生き残る尊さと、悲しみしか笑っちゃいけないって事。

 糸が切れるような冷たさの中で、僕は眠ることも出来ず、ギターを弾き、ビールを飲み、マンガを読み、めがねをかけている。トランポリンがあったらはねることが出来るのに。なぜないのか。なぜないのが当たり前だと思うのか。

 君は、
 今ここに
 トランポリンがないことを
 なぜ
 あたりまえだと
 思うのか

 僕は耳掻きを武器にコンクリートに立ち向かう。
 彼の弱点は愛。
 僕は彼を切り裂き
 彼の死は
 今
 僕を切り裂いている。

 FAXが届く。
 死んだはずのブルーから。
 「犯人はあなた」
 
 僕の右手の耳掻きからは血が滴り落ちている。
 僕はにっこりと優しく笑って、待っていたニュースはこれだったのだと気づく。

 さあ、旅に出よう。
 ここにはもう草は生えていない。
 
 知らない間にうまくやろうとしていた僕に告ぐ。
 誰がなんと言おうと、これは愛の歌だ。

Posted by kato takao at 2006年12月17日 05:01 | TrackBack
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