コンクリートのイメージ
切れかけた糸のように冷たい
世界で最後の妊婦が希望について語った言葉のように
FAXが届けてくれるのは待っていたニュースではなく、ただのトピックスで、あ、もしもし、もう結構ですよ、僕には忘れられない物語がありますから、彼女をストッキングで殺したのは僕ではありませんよ。
ストッキングで殺されたのは、ブルーと呼ばれていた女。
始まりはいつもブルーだ。もちろん殺人は続く。続いてレッドで、イエロー、グリーンを乗り越え、最後はブラックで枯れ果てた。
すべての手口は同じ。ストッキングで首を絞める。なぜか彼女達に苦悶の表情はない。パンティストッキングはその本来の役割のように、優しく首を包んで殺す。
浮かんで消える。浮かんで消える。
消えたままでいてくれたらいいのに、だいたいいつも浮かんだままだ。
忘れ物は15年前の引き出しの中に。あのときタイムマシーンが僕の引き出しにやってきたら、こんなことにはならなかったんだ。
コンクリートのイメージ。
何よりも硬く、圧倒的に無機質。
生も動もない。
絶望的に高く、また広い。魚眼レンズで見た空のようにそびえ立ち、絶対冷度の歌だけが反駁される。
僕は耳かきを武器に立ち上がり、世界に壊せない物などないのだと理解する。
その確信は時を越え、君の耳のかすになった。
あらゆる物に立ち向かい、緩慢な自殺を繰り返し、いちいちだらだら騒ぎながら、極彩色の中死んでいく。
聞こえるか。
君がいなければ生きていさえいられない。
君は興味なさそうにうなずく。
君がいなければ生まれてさえこられなかった。
君は少し笑って、それは嘘よという。
君に言っておくが、それが嘘かどうかは、誰にもわからない。
コンクリートのイメージ。
僕は耳かきで立ち向かう。
崩れる予感はない。
あと少し。
あと少しで僕はあきらめる。
いつか何かを壊す夢を、もうすこしで見ないようになる。
混濁の目で見つめる。
愛欲の匂いを嗅ぐ。
夕暮れの言葉をあやつり。
こうもりのささやきを聞く。
「ねえ、赤ちゃんを産むときって、上唇を上に引っ張って目隠ししちゃうほど痛いんだって」と彼女は言った。
しかし、彼女は続けた。「でも、そんなことやったことある人いないから無駄な喩えよね」
そうだね、と僕は笑う。彼女も笑う。
二人の間に浮かんだ、上唇を上に引っ張って目隠ししている映像は、おぞましくも愉快だった。
コンクリートが見た夢。
それを愛と呼ぶ。
くだらないまま生き延びて。
それも愛と呼ぶ。
彼が教えてくれたのは、生き残る尊さと、悲しみしか笑っちゃいけないって事。
糸が切れるような冷たさの中で、僕は眠ることも出来ず、ギターを弾き、ビールを飲み、マンガを読み、めがねをかけている。トランポリンがあったらはねることが出来るのに。なぜないのか。なぜないのが当たり前だと思うのか。
君は、
今ここに
トランポリンがないことを
なぜ
あたりまえだと
思うのか
僕は耳掻きを武器にコンクリートに立ち向かう。
彼の弱点は愛。
僕は彼を切り裂き
彼の死は
今
僕を切り裂いている。
FAXが届く。
死んだはずのブルーから。
「犯人はあなた」
僕の右手の耳掻きからは血が滴り落ちている。
僕はにっこりと優しく笑って、待っていたニュースはこれだったのだと気づく。
さあ、旅に出よう。
ここにはもう草は生えていない。
知らない間にうまくやろうとしていた僕に告ぐ。
誰がなんと言おうと、これは愛の歌だ。
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