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2005年12月15日

 ロボピッチャーのレコーディングのためのレコーディング(?)みたいな作業をしています。
 新しい言葉とメロディーを作って、それを四人で形にしていくという作業は本当に楽しく、おおげさではなく生きている実感を得られるほどの素晴らしい時間なのですが、まさに同時代的になんらかの代償も払わされるようで、僕はもうアルコールなしで日常生活を営む事はあきらめました。まあ、そんな時期が年に一回くらい(?)あってもいいでしょう。

 このなんとなく満たされない感じというのは、もちろん日常的に感じている事であり、何かへの飢餓感であり、一抹の不安であり、安定した幸福を求めない感じであり、うずうずしていたい感じなのだけど、それは冬の寒い夜には、異常な緊迫感で僕に襲い掛かってきて、ただじっとテレビを見ているだけで、走り出したくなるような気持ちになる。

 俺はお前達にいいたいことが一つだけある。
 でもそれが、何かはわからない。

 というのはその昔、尾崎豊がライブで語ったといわれる伝説のMCですが、まさにいまそんな感じで、このMCを聞いたときはみんなで腹を抱えて笑ったけど、今は自分の腹の奥まで見透かされていたような戦慄を感じます。

 時々思う。
 僕らがやってる事はただの徒労で、誰にも何も伝わらずに終わる。
 何も変わらない。だれもなにも思わない。
 何年か後に極少数に思い出される。
 「ああ、なんかへんなバンドあったなあ」とか。
 だとしても。
 だとしても、僕らは作り続けるのだ。
 少なくとも今、作りたいと思っているのだ。
 それで充分じゃない?

 道を歩いていると、突然20歳くらいの女性に声をかけられる。
 「あのすいません。今ちょっといいですか?」
 彼女はきちんとした感じのいいコートを着ていて、薄紅のストッキングをはいている。靴の先っぽがとんがっているのは気になるけど、うっすらとぬった頬紅でちゃらにしよう。僕は無視はしない事にする。
 「なんですか?」
 「わたし今日一人なんです」
 「そのようですね」
 「よかったら、お茶でもしませんか?」
 僕は、そんなに積極的な女性と会ったことがないので、さすがにたじろぐし、これはなんらかの詐欺的なことだろうと思う。
 「お茶をすること自体は別にかまわないけど、その結果僕らはどうなってしまうんだろう?」と僕は直接的に聞いてみる。
 彼女はそこで初めて人間的に笑う。それは、妖艶とすらいえる笑顔で、
 「さあ、それはあなた次第じゃないかしら」という。
 「だとしたら」と僕はかすれた声で話し出す。「僕とあなたは今日はお茶をするべきではないでしょう」
 「なぜ?」
 「僕はきっとあなたの期待にこたえることは出来ないから」
 「わたしが期待している事があなたにわかるの?」
 「わからないけど、わからないことがきっと今問題なんでしょ?」
 「なるほど」と彼女はまたあの絶望的に妖艶な笑みを湛える。「それはそうね」
 そして、彼女は、ハンドバッグから名刺入れを取り出し、片手で僕に名刺を渡す。
 「近いうちにここに連絡してきて」といって、彼女は名刺に書かれた電話番号とメールアドレスを指差す。「あなたならいつでも返事をするから」
 「ありがとう」と僕はいう。「でも、きっと連絡はしないと思うよ」
 「なぜ?」
 「さあ、それがなぜかはわからない」
 「尾崎豊のMCみたいね」
 「ははは」と僕は笑う。そして「うん」という。
 「仲良くなれると思ったけど」
 「うん。でも結局は・・・」結局はシステムの問題なんだ。君が、こんな場所で、寒空の下で、僕みたいな男に声をかけなくてはならないようなシステムに問題があるんだ。「結局は、上手くいかなかったんじゃないかな。どう足掻いても」
 「足掻くつもりもないんでしょ」
 「うん」
 「それがなぜかはわからないけど」と彼女は言った 
 「それがなぜかはわからないけど」と僕は言った。
 「さよなら」
 「うん」
 彼女は、別の獲物を探して街をうろつく。すばやくきびすを返して、もうその後姿に感情を残していない。
 「ねえ」僕は声をかけてみる。
 「なによ」彼女は歩みを止めて、振り返ってやや不機嫌そうにそう言った。
 「もうすぐライブがあるんだ」
 「ライブ?」
 「僕は音楽をやっていて」
 「ああ。そう。わたしの友達にもいっぱいいるわ」彼女はいっぱいいるわの部分を不必要に強く言う。僕はすっかり萎えてしまうけどでもなんとか口を開く。
 「うん。僕もそのうちの一人で、音楽をやっている。もしよかったらライブに来てよ」
 「尾崎豊みたいなMCをしてくれる?」
 「いや、それは無理だな」
 「ふーん」彼女はでも、少しだけ興味を持っている。なにせ、尾崎豊のMCについて知っている20才の女性なのだ。「まあ、いけたらいくわ」
 「うん。来れたら来て」
 「うん」
 「じゃ」
 「じゃ」

 そして、僕らは別れる。僕はそのままジュンク堂書店に行き、仕事に必要な資料を購入する。
 帰り道で、別の男に声をかけている彼女を見かける。
 僕は、何も思わずに、なにも思えずに、通り過ぎる。
 
 彼女はライブに来てくれるだろうか。
 来てくれないだろうな。
 来てくれなくても、ライブは行なわれ、僕らは歌い演奏し、少しづつ磨耗していく。
 磨り減って、いつかはいなくなる。永遠はどこにもなく、精神のみずみずしさだけが断続的に失われていく。
 それでも。

 それでも。
 警鐘は日常的に鳴らされなくてはならない。
 僕らは、ステージに上がり、僕らが必要だと思う分だけの演奏をしなくてはならない。
 未来に向かって僕らは歌わなくてはならない。
 なぜなら、それが僕らの生まれてきた意味だからだ。
 僕らの作られた意味だからだ。
 僕らが集まってこのバンドを作った意味だからだ。
 僕らの警鐘が一番高らかに鳴るんだよ。

■ 2005/12/20(火) 梅田・シャングリラ 「大阪コントロール Vol.1」
【出演】ははの気まぐれ / ロボピッチャー
【時間】open 18:00 start 19:00
【料金】¥2,000(adv) ¥2,500(door) +drink
【info】シャングリラ/06-6343-8601 http://www.shan-gri-la.jp  

■ 2005/12/22(木) 青山・月見ル君思フ 「東京コントロール Vol.4」
【出演】nirgilis / ロボピッチャー
【時間】open 18:30 start 19:00 
【料金】\2,000(adv) \2,500(door) +drink
【info】月見ル君想フ/03-5474-8115 http://www.moonromantic.com

■ 2005/12/24(土) 京都MUSE 「唄と星と男と女」
【出演】エレクトリックギュインズ / ヒトリトビオ / ロボピッチャー
【時間】open 18:00 start 18:30 
【料金】\2,000(adv) \2,500(door) +drink
【info】KYOTO MUSE / 075-223-0389 http://www.arm-live.com/muse/kyoto/

 良かったらお越しください。
 あなたが来ても来なくても、僕らはよい演奏をするけど、来てくれたらうれしい。

 それがなぜかは、もう、ほんとにわからない。
 

Posted by kato takao at 2005年12月15日 04:32 | TrackBack
みんなのコメント

伝わってるよ。わたしはあなたの紡ぐ言葉が好きだと思う。

Posted by: ノートン on 2005年12月15日 23:02
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