中学二年生の頃、野球部では、自分の好きな人を発表するという儀式が流行っており、みんながべらべらしゃべっていた。
僕は小学校の頃から好きな女の子がいたのだけど、それは僕にとって人生最大の秘密で、それより大切な秘密は一つもなかった。小学校の5年生まで時々寝小便をしていたことよりも、「僕が好きな女の子」のことのほうが重大な秘密だった。もちろん誰にも言ったことがなかったし、そんなことはとんでもないことだった。
その女の子は三原さんといい、水泳部で、とにかく頭が良かった。絵も上手でピアノも上手かった。あと、字も上手かったな。典型的に優等生で、だれからも慕われ、尊敬されていたけど、どう贔屓目に見てももてるタイプではなかった。なぜ僕が三原さんをあんなに熱烈に長い期間好きだったのかはもうわからない。しかし、僕は6年間ほど彼女を好きなままで過ごした。
僕はその事を誰かに伝えるつもりはなかった。
しかし、野球部の追求は、もう抜き差しならないところまできていたのである。
野球部のその儀式は、伝染病のように広まっていき、一人、また一人と告白させられていった。そのことを発表しないと、野球部の中ではずいぶんと待遇が悪くなっていった。しかし、発表した人間もその事でからかわれたりもしていた。
江戸時代の隠れキリシタンが、踏み絵を踏まされたときのように、踏んでも信仰を汚され、踏まなくても追及を受けるようなそんな切迫した状況だった。
あるものは別になんてことないよという表情で二人の女性の名前を挙げ、「まあ、付き合ってくれっていわれたら、どっちとつきあってもいいな」とか言っていた。ある者は、しばらく粘った結果さまざまな懐柔工作を受けついに口を割ったりしていた。
部内では後僕を含めていっていないのが2人くらいになっていたが、僕はまだ言わなかった。諸説が乱れ飛び、さまざまな憶測が流れたが、どれも見当はずれで、どうってことなかった。僕は上手に自分を隠し、だれも僕を理解なんて出来なかった。
それが起こったのは蒲田先生が出張でいなくて、生徒だけでいつもよりだらだらと練習をしていたときであった。確か、40mダッシュを6本ほど終えたところだったと思う。
誰かが「加藤が好きなのは三原さんだろう!」と突然いった。
僕はそこからの記憶が10秒ほどない。
アタマが真っ白になって、手足がしびれて、血がみるみる顔に上るのがわかった。
しばらくしてから必死で「違うよ!」と言ったけど、声は震えていて、「そうだよ」といったも同じだった。
みんなはものすごい歓声を上げ、「加藤が好きなのは三原だ!」と叫びまわった。
僕は絶望的な気持ちになり、人生を自らの手で終わらせる事を前向きに考えはじめた。
おっと!ここで終わりですか。
超短編ならあり。テクい。
でも続きが読みたいよーな気も‥。
Posted by: うさこ on 2005年08月06日 00:26あ。
なんか勝手に超短編集だなんだと申しておりましたが
もともとこのシリーズは連作の予定だったのですね。
さっきこのページを携帯からも読めるようにしよーと思って
お気に入りに登録してから何気に最近の100を開き
タイトルだけが並んでるのを見て初めて気がつきました。
早よ気づけよって感じですね。迂闊でした。アホでした。いやん。
Posted by: うさこ on 2005年08月06日 01:20
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