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2004年12月31日

 昨日は古い友人と飲みに行きました。
 とにかく飲みました。
 ばーっと飲んで、ばーっと遊んで、ものすごくあたまを使った妙なルールのもと、ストラックアウトというゲームをしました。うん。面白かった。野球経験者は僕くらいだったけど、あんまり差はなかった。ちぇっ。

 その後、なぜか、先日の日記に出てきた「俺にテキーラを紹介した男」堀田君の家でテキーラを飲むことになり、まあ、なんか、朝の7時くらいまで飲んでました。僕はものすごく酔っ払って、いろいろしゃべった。あんなにたくさん言葉を使ったのは久しぶりかもしれない。
 しかし、今だに堀田君の家に行ったらテキーラが常備されているのだなあ。僕は十台半ばの頃に始めてテキーラを飲んだグラスで、また飲んだ。ごくごく飲んだ。テキーラ万歳!
 堀田君の家から僕の家まで徒歩20分くらいなのだけど、歩いて帰りながら酔っ払って、友人に電話して何度も同じ話をしたらしい。けど、あんまり覚えていない。まあ、楽しかった。これがあって、年が暮れる。今年もみなさんありがとう。堀川高校の皆さんに栄光とかがありますように。
 あっ!借りるって言ってたアルバム忘れちゃったよ、堀田君!

 僕は、あまり過去のものをとっておいたり、時々取り出して眺めたりはしないので、自分の昔の写真とか、そういった類のものはほとんどないのですが、堀田君の家には高校の頃の写真がいろいろあって驚いた。
 高校2年生の終わりの春休みに、堀田君と僕を含む四人で、日本海に歩いて行ったのです。僕らは日本地図に定規を押し当てて、「うーん、京都から日本海まで直線で80kmくらいだし、俺達は若くて、体力もあるから時速8キロで歩いて、10時間くらいで着くだろう」とかいう信じられないほどばかな計画を立てて、出発しました。
 で、方位磁石を片手にほんとにまっすぐ北に進んだのです。山があったら越えて、川があったらわたって。ショートカッターズと名づけられたその四人組は、道があっても無視し、方位磁石だけを頼りにただ北へ。谷を降り、山を登り、なんと、3泊4日もかかってやっと日本海に到着しました。たしかその旅行では一人1000円くらいしか使わなかった。
 得た教訓は一つ。
 「ショートカットすると余計に時間がかかる」
 僕は生涯であんなに過酷な4日間は過ごしたことはありません。ずっと雨が降っていて、テントは途中でつぶれ、目が覚めたら、山の中、豪雨に打たれながら、テントの屋根がべっとりと顔にはりついていました。 僕らは四人で、絶えず寒さに震えていて、僕の寒さに対するトラウマはここに端を発しているのではないかとも思います。山道をただ歩いて、歩かないと前に進まないのです。自分の体が動かない限り、少しも前に進まなくて、信用できるのはただただ自分だけでした。
 僕は疲れ果てていて、とてもじゃないけど、他の人達を思いやったりなんか出来なくて、ひどくぴりぴりしていたそうです。
 通りすがりの家で水をもらい、もって行ったコンロで米を炊き、カレーライスを作りました。ラーメンも作ったな。どれもひどくまずかったけど、疲れた体にはすべてがご馳走でした。米を磨ぐってことも知らなかった高校二年生の僕達は、芯の残った硬い米をむしゃむしゃと平らげ、我先にまだ茹で上がっていないラーメンをすすり、ただまっすぐに北を目指しました。
 山道では、ほとんど誰にも会わなくて、信号機を久しぶりに見たときにはものすごい違和感を感じました。
 確か最終日だけ晴れていて、ものすごく暑くて、夜にランプを持ちながら歩いた。自分達が担いでいたリュックをいすにして空を見上げたら、星が動いていくのがわかりました。じっと星を見ていると動いていくんですね。あんなにしっかりと星を見たのは後にも先にもあのときだけです。
 体からはたぶんひどいにおいがしていて、僕はぼろぼろになっていて、でも「何故こんなことをしなくちゃならないのか」とは一度も思わなかった。ただ北へ。ただ北へ。そのことは一度も揺るがなかったし、当然の前提だった。なんでだろう。

 海について、やったーってなって、確か最後のラーメンを食べた。
 僕は気分が悪くなって、近くの便所で吐いた。涙が出てきて、どうしようもなかった。服の袖でぬぐったら、余計に汚れた。
 他の三人は海で遊んでいて、わーっとか言ってたと思う。あんまり覚えてないけど。僕は海を見ていて、その時に初めて「なんでこんなことしたんだろうな」って思った。なにかあると思って来たけど、もちろんなにもなかった。ただの海だ。僕は気分が悪かった。まだ吐き気がしたけど、吐けるものがもう何もなかった。どこにもなにもない。
 帰りは電車で帰りました。帰りの電車賃だけは持ってきていたのです。いくつかの電車を乗りついで、3時間ほどで京都に着きました。
 電車の中で「よくやったなあ」と四人で言い合いました。「なかなか出来ることじゃないよ」
 で、特別な別れの言葉もなく、僕らは別れて、旅は終わりました。
 なにもなかったけど、何かを探そうとしたのだなあと僕は思いました。決めたことをきちんとやり遂げて、たまたまそこになにもなかっただけだ。

 しかし、なにもなかったというのは後に大きな勘違いだったとわかりました。
 僕はその後の人生の中で、何度も何度もこの4日間のことを思い出したし、その日々のことを思っただけで、信じられないほど励まされました。僕らは歩いて日本海に行こうと言い出して、その馬鹿らしい計画をちゃんと実行に移して、しかもやり遂げたのです。

 僕はあの時、海で吐いたラーメンがのどを通っていく感触をまだ覚えています。
 体中から立ち上った匂いも覚えている。
 無理やり越えた滝や、腰の痛みや、どろどろになった靴や、時々交わしたとげとげしい会話や、ランプの匂いや、雨の冷たさや、ガムテープで補強したテントの頼りなさや、夜中に見つけた自動販売機のライトの明るさや、豪雨の中で眠って目が覚めたときに体の下に水溜りが出来ていたときの絶望的な気分や、久しぶりに信号機を見てものすごい違和感を感じたことや、ポンチョを叩く雨の音や、橋の下で眠ったときの川の流れる音や、そういうものがぜんぶ体の中にきちんと感覚として残っていて、今の僕の一部になっているのだと思います。

 大切なことなんてそんなにないけど、まったくないわけじゃない。
 堀田君の家に昨日15年ぶりくらいにいって、15年ぶりくらいに二人でテキーラを飲んで、15年ぶりくらいにショートカッターズの写真を見て、暴力的に当時の感覚に引き戻されたときに、上記の映像が浮びました。その強制力は異常でした。
 僕はテキーラを飲んで、テキーラを飲んで、「ちょっと休むね」とか言ってビールを織り交ぜて飲んで、男二人でやけに寒い部屋で、ストーブの前で寄り添うように、高校時代の写真を見てました。一応言っておきますが、危険な香りはしませんでした。

 僕は、あきらめたりしません。
 ないなら作ろうと思うし、間違っているのなら、変えてしまえばいいと思う。
 ないからこそ創るべきだし、あるならもう創らなくていい。
 歌詞を盗作するアイドルとか、どこかで聞いたようなメロディーとか、ありがちなアレンジとか、そういうものが僕にはまったく少しも理解できないのだけど、世の中のほとんどの人達はいったいなにをやっているのか。
 「ロックはもう終わった」って?終わったらまたはじめたらいい。失くしたら探せばいい。重かったら降ろして、軽くする努力をすればいいし、重くても耐えられる体を作ればいい。怖いものなんてなにもないし、出来ないことなんて一つもない。意味のあることなんてないし、ぼくらはただ時間を消費するためにこの世に生を賜り、なにもない場所で、なにかを有らしめようとして悪戦苦闘している。
 僕はあきらめたりしません。ここではなにをしてもいいし、何もしなくてもいい。
 僕はやることを選んだ。日本海に向かって、一歩一歩進んでいるときに、決めた。
 なにもなくてもやる。なにもなくても生きる。なにもないなら創る。無駄でも創る。

 きちんとそうやってやってきました。
 寸分違わず、2004年もそんな年でした。世界に向かって本当に叫びたいくらい(世界に向かって愛を叫んでる奴らが赤面して逃げ出したくなるくらい)すばらしいアルバムを2枚もリリースすることが出来ました。
 僕はあきらめませんでした。「もうその年じゃ無理だよ」とか、「加藤の曲は売れないよ」とか、「ちょっと独特すぎてうちからは出せないねえ」って言われ続けてきたけど、一度も疑わなかった。僕の曲はすばらしくて、なにもないところに何かを生み出す力があると。
 4月にファーストCD発売記念のライブをして、僕は人生でも幸せの頂点みたいな時間を経験して、その時にもっと上があるのだとわかった。終わりなんてないな。求め続けて、時間切れまで死ぬまでがんばって、倒れたら土に返るのだな。求め続けて、満足は瞬間で終わり、次をまた見て、その歓喜の瞬間をただただ追う。幸せになんかならない。安定した常設の幸せなんかいらない。ただ、歓喜の時を追う。

 ものすごく、高校二年生のときの日本海を目指す旅と、2004年の僕の生き方がシンクロしたので、やけに長い日記になりました。

 今年、僕らの創るすべてのことに少しでも反応してくれた人に、心から感謝を。
 きっと来年はもっと。

Posted by kato takao at 2004年12月31日 05:55 | TrackBack
みんなのコメント

あの後二人で飲んでたんかよ。

そんなの俺を呼べつーの。

もしくは、一生内緒にしてろつーの。

Posted by: 通りすがり on 2005年01月15日 21:13
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