寒いのが嫌いなので、抱き合って眠りました。
孤独は二つ合わさると、倍になるようでした。
足の先が冷たくて、ふとんの中で動かしながら、「あたたかくなったら何か変わるのだろうか」って考えてました。足は温かくなったけど、なにも変わりませんでした。
明日、目が覚めても、まだ時間は続いているのだろうか。こんな凍るような夜を越えてなお、世界はつづいているのだろうか。そんなことを考えていると、隣からは規則的な寝息が聞こえてきます。僕は彼女の名を呼んでみるけど、それはマンガのふきだしみたいにぷかりと浮かんで、ふわふわと月明かりの中を飛んでいってしまいました。
彼女はあたたかくて、平和のシンボルみたいでした。戦火の中で兵士達がただ一つ思い描くことが出来る平和の象徴。
僕は眠れないまま、僕を抱えて、いったいいつになったら、こんな夜を迎えないようになるのだろうと思いました。窓の外はカチリと止まっていて、何も動きません。時間泥棒がやってきて、この時間を盗んでいってくれたらいいのに。
淡くて、蒼い夜。蜃気楼が溶け込んだみたいな空気で。何も動かなくて。僕だけが世界みたいでした。僕はひとりぼっちの英雄で、僕のために僕の中で僕を賭けて僕と戦っていました。勝ったのはもちろん僕で、足元にはたったいま切り刻んだ僕が転がっていました。
ざまーみろ。と僕は思う。僕に勝てるものか。僕は敗北の悲しみに打ちひしがれながら、土を食み、この憎悪がいつか地上を包み込み、僕の屍を越えていく人々が黒い血を流しながら僕を叩きのめす幻影を見ました。
そういえば、僕は人を殺したことがない。
暖かな肌から、吹き出るものが本当に赤いのかどうかしらない。
知りたいか?
彼女は軽やかな寝息を立てています。白い夜の光を浴びて、この世のものとは思えないフォルムで。ふとんから足がはみ出していて、僕は毛布を掛けてあげる。髪の毛が口に入りそうなのでよけてあげる。
彼女は夢をみているだろう。
良い夢だろうか。悪い夢かもしれない。時々ため息みたいな声がもれます。僕が見るはずの夢を彼女が見ているのかもしれない。カムチャツカ海峡を越えたところにいる少年が見ていた夢と同じかもしれない。
僕は背中を丸めて、ふとんを体に巻きつけるようにして、少しだけ音楽のことを考える。
メロディーが生まれて、どこかに飛んでいく映像が浮かびます。
ベージュの羽が生えて、よろよろと飛んでいく。どこまでもはいけないけれど、それもどこかには届く角度で。
倍になった孤独は、加速度的に拡大し続け、もう商品としては使えなくなってしまったようです。哀しみみたいな色のやさしい話を、誰かが語っています。
僕はまだ目を閉じて朝を祈っています。
誰にでも必ず朝が来るという伝説は本当なのでしょうか。
そんな幸せな夢を、彼女が見ているといいのになと、思いました。
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