新曲を作るときはいつも闇雲にしんどい。
それは、僕自身を「その中」に放り込むところから始まる。「その中」ってのがなんなのかよくわからないのだけど、とにかく音楽が作れる空間のこと。そこに行くまでが最初にして最大の難関ともいえる。日常的な生活が出来なくなる。僕はまずご飯を食べることを忘れる。しばらくしているとふと「その中」にいる。そこはコミュニケーションや、社会的なものがまったく存在せず、ただ、僕だけのために用意された部屋だ。僕が、僕の力でそこに降りていって、僕のための言葉やメロディーについて考えなくてはならない。そこにはこれまでの僕からちぎれて落ちたたくさんの残骸が転がっている。ときどき、ものすごくまれにヒントみたいなのが落ちてる。でも、その確立は低い。最近は特に低い。だって、見えやすいところにあるものはすでに使って曲にしてしまった。
砂場でたった一粒の砂金を探すみたいに僕は一つ一つ眺めていく。それは根気ともいえるし、集中力ともいえる。手当たり次第に探すわけではない。まず、宗教がある。とても大切なことだけど「ここに必ず正解がある」と信じること。それが実はとても難しい。僕はあきれるくらい不安定な場所で生活しているので、何かを100%信じるってことはとんでもなく困難な作業です。でも僕は信じてみる。信じられないっていう感情も含めて信じる。だって、信じないと空さえも飛べないじゃないか。
そして、やっと本当の探し物が始まる。不思議なことに、本当に強く「探したい」と願えばそれは一瞬で見つかる。でも、いつもいつも「本当に強く」物事を願えるわけではない。
「その中」にいることがとても楽しいこともある。とても誇らしくて、音楽が僕の見方であるような気がする。ひとたび僕が曲を作れば、それは世界中の音という音が協力して、ただ僕のために整列して音楽になるのだ、と。でも、そんな完璧な時間はめったにやってこない。そして、やってきたとしても良い曲が作れるとは限らない。それがなぜかはわからない。僕にだってわからないことはある。何でもわかってたらこんなに苦労しない。
そして、僕のためのメロディーと言葉が抽出される。それは本当に純粋に僕のためのもので、他の人にはなんのことかわからない。
僕は僕の音楽が一人でもたくさんの人に届くように祈っているので、それを少しでも僕以外の人たちにわかってもらえるように作り直す。言葉をきちんと日本語の文法に直す。世の中で流通している言語の常識になんとか合うようにする。メロディーやコードを整える。
それから、やっと、バンドのことを考える。僕はすべての苦しみを完全に一人で背負うことは選ばなかった。ここからは一人じゃない。
大体僕はドラムのことから考える。どんな風に叩いてもらいたいかな。
で、ほんの一瞬だけイメージを作ってやめる。あとは、僕の仕事じゃない。彼らの仕事だ。
そこからさらに時間がかかる。時には半年や一年もかかる。いらいらしたり、不協和音がなったりする。「俺のギターが気に入らないなら、別のギターを探すんだな!!」なんていうセリフが飛び交う。いや、ロボピッチャーでは飛び交わないけど、それに似た感情はもちろん飛び交っている、と思う。良い意味で。
そして、僕たちは新しい曲をライブで演奏し、レコーディングしてリリースする。
ああ、完璧だ、なんて思わない。なんて未完成なんだろう、と思う。
それなのに、僕は「僕たちは世界一だ」とも思っている。
僕はあの場所から正解を持ってきて曲を作った。あんなにひどい場所からかすかな希望を拾って音楽にして、それをこのバンドで演奏している。だれがそれに勝るものを作れるだろうか。
その点において、僕は負けることはない。せいぜい同点はあるけど。
僕が嫌悪するのはそうじゃない音楽の作り方をしているすべての人のことだ。
僕は世界一良い曲を作る未完成な人間で、ロボピッチャーはそれを世界一理解してくれる未完成なバンドです。
新曲を4曲ほど作りました。今回は本当にひどい時間を過ごした。
でも、どうやらまだ、世界一の座は奪われなかったようです。
Posted by kato takao at 2004年02月28日 05:48 | TrackBackものすごく共感。
Posted by: 鶴坊 on 2004年02月28日 10:21
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