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2002年05月31日


 朝起きてみると、だいたいいつも起きてしまったことを後悔する。
 あのまま眠って、少なくともここではない場所で目覚めたかった。

 一つ一つのことをベッドの中で認識していく。
 昨日丁寧に抜いたまゆ毛のこととか、膝小僧の裏になぜか最近出来たほくろのこととか。すべてが僕である。一つ欠けても僕じゃない。
 やっと目を開ける。ここまでに約四分くらいかかる。二度寝なんてしない。起きる哀しみが二度になるから。
 くしゃくしゃに乱れた布団。へんな位置にある枕。髪の毛がどうにもおかしな形になっていて、心からうんざりする。ここから、3mほど動くためには、誰の助けを借りることもできない。ありったけのゴミくずみたいな存在理由をかき集めて、必死の思いで起き上がります。
 体を起こして、まだベッドの上で僕は思う。「おかしい」と。おかしい。こんなにつらいはずがない。朝がやってきて、目が覚めて、なにも起こっていないのにこんなにつらいはずがない。
 昨日なにがあったんだろう。いや、別になにもない。こんなに悲しくなる予定はなかった。膝小僧をおでこに当ててみる。これは、すごくおかしなことがおこっている。

 ふと気がつくと、僕はやけにイノセントな柄のパジャマを着ていることに気づく。けっして世界中のだれを傷つけることもないような。
 じっと見つめているとその柄がゆっくりと溶け出して、僕の身体に致命的なしみをつけようとしているみたいに見える。もちろん、そんなことない。気のせいだ。
 でも気のせいだとわかったところで、僕の嫌悪感が消えるわけではないでしょ。だからつまるところなんだかいやな気分になる。

 何かがラインを引かなくてはならない。つまり、このままでは僕の一日ははじまらないし、この文章を読んでいる人達も行き場所がない。
 なにがラインを引くかというのはとてもつまらない話で、言葉にする価値すらないとは思うが、えーっと時間です。
 8:30に目覚ましがなり、8:50にベッドを出ないと、僕は一つ仕事をなくしてしまう。だから起きあがる。
 しょうがない。と僕は思う。しょうがないから起きる。そのころになると僕は僕であることを正確に認識し出す。そうだ、昨日も一昨日もこんなふうに目覚めた。たぶん、明日も明後日もそうだ。ずっと、この儀式は続く。極限までシステム化されたベルトコンベアーのように。

 朝が来なければいいのに、とは思わない。夜は夜で、やはり落ち度がある。落とし穴はそこら中にある。その隙間をやけに陽気なステップで踊りつづけていたい。ぼくのダンスは、見るものすべてを勇気付けるダンスである必要はなく、ただ、その主体のみをほんのひとときでも長く、この世につないでおくための古ぼけたロープであれば良いと思うのです。
 それでは。

Posted by kato takao at 2002年05月31日 01:13 | TrackBack
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