たしか、8年くらい前だと思うけれど、世の中を騒がすある深刻な事件が起こった。
犯人はすぐに捕まえられた。
その犯人は法廷でこう証言した。
「死刑にしてください。生まれ変わったら勇者になって世界を救いたい」
僕はその小さな囲み記事を読んだときに、なぜかわからないけれどものすごく強い衝撃を受けた。
しばらく、深く悲しんだ。被害者にも加害者にもなんのつながりもなかったけれど、とにかく深く深く悲しかった。
あの事件が起こってしまったのは僕のせいだったんじゃないかとすら思った。
僕がもっとはやく、もっと深く、世界に「物語の体験」を伝えなくちゃいけないと思った。
ばかばかしく聞こえるだろうけれど、本当にそう思った。
僕ならたぶん、彼に言ってあげられたのだ。
「今君がいるこの世界のこの時代でも、君はちゃんと勇者になれるんだぜ」って。
ひょっとしたらそれは、あの時、僕にしか言えない言葉だったかもしれない。
物語の中に入りたいと最初に願ったのはいつだったか。
「はてしない物語」を読んだ時だったか。
「ドラえもん」を小学校一年生で読んだ時だったか。
「グーニーズ」を観た時だったか。
ごたごたがあったといえるほどではないけれど、なんとなく暗い少年時代に、僕は必至で物語を読みふけり、こんな物語みたいな日常がやってくることを痛切に願った。
猫型ロボットが、引き出しからひょっこり顔をだす瞬間を願い続けた。
屋根裏部屋から宝の地図が偶然見つかることを願い続けた。
ネバ―エンディングストーリーみたいに、本の中に入れることを、願い続けていた。
わかったことは一つだけ。
物語みたいなことは、物語の中でしか起こらないってことだ。
そう気づいたのは10代の半ばくらいだっただろうか。
そのままぼんやり大人になって、大学を出て、会社を辞めて、売れないミュージシャンになって、フリーペーパーを作りながら、それでもずっと、どうやったら物語の中に入れるのかを考えてた。
リアル脱出ゲームというアイデアを思いついたのは、32歳の春だった。
このアイデアがあれば、物語の中に入ったような体験を作り出せる!と思った。
2007年7月7日。最初のリアル脱出ゲームが開催された夜に僕は、スタッフ全員にメールを送った。
「やっと見つけた!!これは物語の中に入ったような体験ができるゲームだ!」と。
リアル脱出ゲームが生まれてから二年ほどたって、その事件が起こった。
彼は「早く生まれ変わって勇者になりたい」といった。
僕は思った。もっと早く、このゲームを世界に広めなくてはいけない。
彼のような人を、リアル脱出ゲームは救うのだから。
そして、僕のような少年をリアル脱出ゲームは救うのだから。
リアル脱出ゲームを作り続けてこられた理由はいくつもあるけれど、そのうちの一つはこれだ。
僕は彼のために、彼みたいな人のために、そして僕みたいな人のためにゲームを作り続けた。
リアル脱出ゲームを作りながら、僕はずっと短編小説を作ってる気持ちだった。
本来なら10時間くらいかけて説明される物語の、最後の一時間だけを提示しているみたいな気持ちだった。
短編小説は、そのフォーマットゆえに、物語の始まりから描くことはできない。
一ページ目から、もう物語は起承転結の転から始める必要がある。
クリアするのに何十時間もかかるドラクエみたいに、12話まであるテレビドラマみたいに、読み終わるまでに一か月もかかる長編小説みたいに、僕らが作る物語ももっと長い時間人々を夢中にさせる必要があるとずっと思ってた。
そうでないと、日常を変えるほどの影響力を持てないと思っていたから。
いつ来ても、そこには物語があり、その物語は一日ではとても終わらず、ずっとつながっていくような、そういう場所が今この世界に必要だと思っていた。
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ある日あなたは目を覚ます。
いつもの部屋。いつもの時間。いつもの温度。
さてと、今日もいつもの会社に出かけなくてはならない。
気が重い。
今日もあの、くだらない文句ばかり言う上司の機嫌を取らなくてはならない。
取らなくてもいいのだけど、取らないとさらにめんどくさいことになる。
あなたは支度をして、外に出る。
いつもの風景が広がっている。
でも、今日見る風景はいつもと違う。
昨日東京ミステリーサーカスに行ったからだ。
あなたの家の向かいでは、とんでもない銀行強盗の計画が立てられていたのかもしれない。
今すれ違ったあの人は、世界的な科学者で、人類を飛躍的に発展させるある研究をしているのかもしれない。
今歩いているこの道の地下には、とてつもない宝物が埋まっているのかもしれない。
ほんの少し見方を変えれば、そこにはキラキラした宝物がいっぱい埋まっていることをあなたはもう知っているのだ。昨日そのことを知ったのだ。
ただの部屋が物語の舞台になり、壁は物語から手紙が届く装置になっていた。
研究所に忍び込み、歌舞伎町を歩き回って信じられない結末の事件を解決した。
あなたはもう昨日までのあなたではない。
この日常の中にこそ物語があることをしっているのだ。
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そんなことを、みんなが思える場所をつくろうと思って、東京ミステリーサーカスをつくりました。
どうか、世界に素敵な物語があふれますように。
その物語はきっとあなたの日常を豊かにするから。
豊かになったあなたの日常は、きっと、さらに豊かな物語を作るだろう。
僕がこの10年考えてきたことは、ざっくりいうとそんな感じのことです。
僕らがつくりたいものは、そういうものです。
あえて胸を張って、偉そうにいいますね。
来てくれたらわかるから、来てください。来てくれないとわからないから。
SCRAP代表
東京ミステリーサーカス代表
加藤隆生
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