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2012年09月06日

ロボピッチャーについて書くのはいったいいつ以来だろう。
もう何年も書いていない気がする。
この不思議なバンドが活動休止してもう二年になる。
この二年間の間に、僕はもう決して「本職はミュージシャンです」などと名乗れないほど音楽から離れてしまった。

このblogを読んでいるどれくらいの人が、僕がかつて「ロボピッチャー」というバンドのボーカリストだったことを知っているのだろう。

二年前のKBSホールの最後のステージで500人くらいのお客さんの前で自分が言った台詞を覚えている。
「活動を休止します。別に待っていて欲しくないです。もし、僕らがまた音楽をやるときに、あなたが僕らをたまたま覚えていたのなら、そのときにまた会いましょう」
会場はロックフェスとは思えないくらいしーんとなって、僕は「これは本当の気持ちです」と付け足した後、次の曲に行った。

待っていて欲しいと願ったことは一度もない。
でも、忘れて欲しいと思ったこともない。

また、新しいバンドとして一から音を出せたらいいなと思う。
僕は37歳の新人バンドマンとして、また一から音楽に向き合ってやろうかと思っている。
それがかっこいいことかかっこわるいことかまだわからない。
ずっと最前線で音楽に接してきた友人たちを見ているから、死ぬほど気恥ずかしい思いもある。
彼らは臥してなお音を求めるだろう。彼らは音楽とともにあり、それは僕が歩めなかった道だ。

僕は音楽から学んだことをすべて、エンターテイメントビジネスに叩きつけた。
その結果僕はたくさんのものを得て、いくつかのものを失った。
後悔などするはずがないが、世界中に一点の曇りもなく胸をはれるかと問われたらそうでもない。

久しぶりにギターを手に持って、Cを鳴らして、CM7を鳴らして、C7を鳴らして、最後に使った小指が少し震えた。
僕の指はもはや音楽をやる資格のある人間の指ではない。

ロボピッチャーのメンバーの中で、何回かのメールが流れた。
少しだけ冷たい言葉が流れたり、感情の不一致があったり、タイミングが合わなかったりした。その責任のかなりの部分を僕が負った。僕は彼らからの大切なメールに返信する時間すらなかった。もっと正確に正直に言えば、そのときには、ロボピッチャーのメールに返信するよりもっと大切なものがあった、と告白する。

いくつかの齟齬を経て、僕らは二ヶ月ほど前にスタジオに入った。
僕はギターを持っていて、ありちゃんはベースを持っていた。
森さんと伊藤君はスタジオの楽器を使った。
僕はその日のためにつたない新曲を書いていった。
歌詞はまだない、コード進行とメロディーだけの曲を三曲。
スタジオで僕はコード進行と簡単なテンポだけ説明して弾き語りをした。
すっと森さんがドラムをたたいて、ありちゃんがベースで合せた。
伊藤君がいつものように、なぜるようにキーボードの音を鳴らした。
あらかじめ決められていたことのように、僕らはもう一度音楽をやるだろうな、と僕は思った。

スタジオを出て、いろんなことがあった二年間について僕らは一言も話さなかった。
どうやって、次のライブをするかの話だけを僕らはしたのだ。
ひとたび音を鳴らせば、我々はいつでもつながるのだ。

次のライブがどんなライブになるのか、まったくわからない。
僕はこれまでの音楽人生でずっと何度も言い続けてきた。
「次のライブが過去最高になるから必ず来て」と。
でも、ごめん。次のライブが最高になるかどうかは約束できない。
というよりは、過去最高のライブは出来ないと思う。
それでも、観に来て欲しいといったらそれはプロのエンターティナーとしては失格かな。
でも、それでも観に来てほしいのです。
僕らの、過去最低かもしれないライブを。

ロボピッチャーって、なんだったんだろうなと、時々思う。
僕らは、僕らの音楽を広めることは出来なかった。
僕らの音楽が世界の隅々まで行き渡ることを願ったけれど、その願いは達せられなかった。
鬱屈した思いをメロディーと言葉に乗せて、僕らは世界に向けて音楽を叩きつけたけれど、世界は僕らが望むほどには返事をしてくれなかった。
僕らは誰よりも大きな声で叫んだつもりだったけど、ほとんど誰も僕らの声を聞き取れなかったのだ。
でも、僕らがあの時に叩きつけた音楽は、数十年前に各国がやった核実験の後遺症のように、世界中の地面にかすかに息づいていると、こっそり思っている。
俺くらいは思ってないと嘘だろ。

さあ。
高らかに宣言しよう。
ロボピッチャーが復活する。
僕らの鳴らす音楽が世界を変えるなどと思ってはいない。
しかし、僕らの鳴らす音楽は世界につながっている。
あなたが今漏らしたため息と同じだけの意味を持って、僕らは世界につながる。

復活の狼煙だ。
俺は、今から音楽を奏でる。

Posted by kato takao at 2012年09月06日 03:30 | TrackBack
みんなのコメント

おかえりなさい。
いつ復活するかの目処もつかず、はたまた本当に復活するのかも分からないのに
私はロボピッチャーの復活を祈り続けてました。

どれだけの人に、ロボピッチャーの音楽が届いているのか、私には分かりませんが
でも私は、貴方達の歌なしには、生きていけないです。

綺麗な音楽、というつもりはない。
もっと、ぬるぬるして、どろどろして。
暖かくて、時に冷たくて。

抽象的なようで、でも、真実の歌。


早く、ロボピッチャーの音楽が、響き渡りますように。
おかえりなさい。

Posted by: on 2012年09月06日 07:57

まーとりあえずめでたい!

でも復活っていう言葉には違和感を覚えるな。
私のなかではライブ活動していなかっただけに感じるよ。

でも本人たちが復活って言っているんだからそうなのかな…。
のんびり構えすぎだったのかしらw

ライブ楽しみにしてるよ!

Posted by: t on 2012年09月06日 10:29

大阪でも演ってくれよ!
またダメ出しさせてくれ。
演らせたいバンド、君らを見せたいバンド一杯居るわ。
期待してるで!

Posted by: HOOK UP RECORDS on 2012年09月06日 20:21

つぎ見る雲がいちばんきれい
やってください。

Posted by: on 2012年09月11日 00:13
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